2015/07/17

サイバーエージェントのカルチャーを醸成するWeb社内報『CyBAR』

2015年5月27日(水)にサブスクリプション型(定額制)音楽配信サービス“AWA(アワ)”をリリースしたサイバーエージェント。既に従業員数は3,000名を超えていますが、AWAのような新規事業・新規プロダクトに次々挑戦する企業文化は、創業以来変わっていないそうです。それはサイバーエージェントが、創業当初から企業文化の創造を大事にしてきたからこそ。

そして、その企業文化創造の一端を担っているインナーコミュニケーション施策が、Web社内報『CyBAR』(サイバー)です。近年ではWeb社内報は一般的になりましたが、サイバーエージェントでは2002年から取り組んでいるんだとか。昨年10月にはリニューアルを敢行し、今年の4月には初の女性編集長が就任しています。

そこでCAPPYでは今回、新編集長に就任した宮原さんにインタビューを行いました。宮原さんが編集長として掲げているCyBARのテーマは“業績をあげる”社内報。果たして、社内報を起点としてどのように業績をあげようとしているのか?

CyBARの全容と、その企てを聞いてきました。

編集部(以下、編):CyBARは2002年に始められたとのことですが、そもそも社内報を始められた経緯を教えてください。

2002年は社員数が300名を超えた頃で、その頃から「他の社員のことがわからない」、「顔が見えない」、「誰が何をやっているのかわからない」といった社内コミュニケーションに対する課題の声が聞こえ始めたんです。そこで当時の副社長が音頭をとり、『文化創造委員会』という有志プロジェクトを立ち上げ、社内報を発行するようになったのが始まりです。

当時は主にマネジャークラスが集まり、週に1回程度の更新頻度でした。内容は日経新聞の“私の履歴書”のような個人の人となりにフォーカスしたものや、社内のトップ営業が営業ノウハウを語るコーナーがありました。

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4月にCyBAR新編集長に就任した宮原さん

 

編:その後13年続けてこられて、昨年10月のリニューアル時点ではどのような状態だったのですか。

プロジェクトメンバーには部署を横断した様々な部署のメンバーが加わりまして、リニューアル前は編集委員15名、月に2回程度の更新頻度でした。

部署横断のプロジェクトになってからは、各部に散在している鮮度の高い情報を拾いやすくなっていました。記事の執筆に関しては、編集委員が現場社員に依頼して寄稿してもらうスタイルでしたね。

編:上手く運用されていたように感じますが、どのような意図で昨年のリニューアルを実施されたのでしょうか。

実は10年超続けている中で、そのスタイルにも課題が生じてきてしまって。記事を依頼される社員は忙しい中で書かなくてはいけない、編集委員も忙しい中でそれを回収しなければいけない。日々の業務の忙しさによって、CyBARに完全にコミットできない状態に陥り、更新数が減ってきてしまったんです。

そんな中、「人が増えているからこそ、会社のカルチャーをきちんと伝えなくてはいけない」という経営課題から、昨年10月に“カルチャー推進室”を新設。CyBARもカルチャー推進室が担当することになり、有志ではなく責任者をつけてやる方向で新しく動き始めたんです。

編:そこで白羽の矢が立ったのが宮原さんだったんですね!どのようにリニューアルに取り組まれたのでしょうか。

まずはプロデューサーとして全体を俯瞰するところから始めました。有志メンバーが数名残ってくれていたので、これまで通り社員に依頼をしたり、自分たちで執筆したりしながら、徐々にリニューアルを進めました。

編集長に就任後は、社内にかかるパワーを軽減しながらも更新スピードをあげるため、外部ライターさんに一部ライティングを依頼しながら更新を続けています。

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CyBARトップ画面

現在は毎週1回、金曜日の夕方6時頃に更新をしています。リニューアル前は常設コンテンツに沿って更新するスタイルでしたが、リニューアル後は常設コンテンツは残しつつも、社内のイベント速報や、発表された方針戦略を随時補足・浸透させるような流動性の高いコンテンツにシフトしています。

編:”流動性の高いコンテンツ”とは、具体的にはどのような内容ですか。

例えば、先日初めて実施された“捨てる会議”のレポートは好評でした。

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もともと弊社には全社へのメッセージや会議の内容などを、経営者自らブログやトークライブアプリ755を通じて発信するカルチャーがあります。ただ、参加しないとわからないことも多いですよね。当然全員が参加することはできませんので、代わりにCyBARで“当日の状況”や“参加者の声”を集めたり、私なりの“学びポイント”を整理したりして、補足・深堀りをするような形で掲載しているんです。

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”捨てる会議”参加者6人の感想は各人様々

 

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宮原さんなりの解釈で学びポイントを整理

“捨てる会議”は藤田を始め、事業責任者クラスが参加しています。これをボードだけの取り組みで終わらせず、全社的に“捨てる”というカルチャーが流行ったらいいなと思ってコンテンツにしました。

あとは、早めに伝えた方が良いタイムリーな記事があれば、号外という形式で他の曜日に配信を行うこともあるんです。

編:例えば、どのような号外を出されたんですか?

”プロレポ”という取り組みの発表のときに号外を配信しました。プロレポとは各事業部のグループ単位で紙の社内報のようなものを作るという取り組みで、おおよそ180もの冊子が出来上がるんです。

内容は半期の目標やスローガン、それに基づく個人の宣言が載っていて、その中から優秀作品を選出して表彰しています。これはみんながかなり気合いを入れて取り組んでいて、役員会を経て決定した1位は号外で配信しました。

配信の内容も、これまではどのように選出されているかが見え辛かった部分があったので、初めて審査会場にCyBARとして突撃取材を実施しました。そして、藤田がどんな言葉を発しながら審査をしているかを取材し記事を作成、審査の3時間後には配信しました。

編:まさに号外という感じですね(笑)。号外の反響はいかがでしたか。

これはかなり反響がありました。755などで優勝したチームの歓喜や、選ばれなかったチームの悔しがっている様子が見えましたよ。ここにはサイバーエージェントのカルチャーが象徴的に出ていたなと感じます。何事にも、競争意識が高くて、社内であっても切磋琢磨して本気でNo.1を取りにいく人が多いんです。

編:号外を今か今かと待っている光景が目に浮かびます…(笑)。ちなみに常設コンテンツにはどのようなものがあるのですか。

ひとつ力を入れているものが、『百花繚ランっ♪』という女性リーダーへのインタビュー記事をまとめたコンテンツです。管理職になってからぶつかった壁について「それをどう乗り越えてきたか?」を聞いています。

背景としては、今以上にイキイキと働く女性を増やしたいという想いからきていまして、このインタビューを通じて、「今活躍している管理職も実はそんなことで悩んでいたんだ」と親近感を感じてもらいたいなと(笑)。リーダーになる、管理職になることはハードルではなく、成果・成長の延長線上にあることを伝えていきたいんです。

他にも、エンジニアにフォーカスしたコンテンツや、新プロダクトの開発秘話、UI(User Interface)・UX(User Experience)の事例を用いたサービス運営者へのインタビューも行っています。

編:それらの取材はどのように行っているのですか。

インタビュアーは基本的に私が行っています。私もサイバーエージェントに入社して10年になるので、同期や身近だった先輩・後輩が主要なマネジメント職や主要な業務を担当していることが多く、そういう話がとても聞きやすいんですよね。

インタビュー後のライティングは外部ライターさんにお願いすることもあります。かなり赤裸々に語ってもらっているので、その情報をクオリティ高く配信するため、プロに依頼をしているんです。

もちろん、最終的には私がトーン&マナーを確認して、現場に伝わりやすい言葉へのリライトを行っています。

編:インタビュー対象はどのように選んでいるのですか。

各事業部に人事、広報がいるので、彼ら彼女らにできるだけ丁寧にヒアリングしています。部のコンディションや活躍している人材を把握できていないと3,000人の中から選出することは難しいですよね。ですので、時間をかけて活躍人材、プロダクトニュース、組織課題などをヒアリングしています。

編:そうなるとCyBAR編集長として、日々の業務はどのような割合で行っているんでしょう。

意外と記事に携わっている時間は少ないんですよ。なるべくヒアリング、情報収集に時間を割くようにしているので、時間の割合でいくと業務の半分くらいはそこに時間をかけていると思います。日々電話したり、メールしたり、フロアをウロウロしてみたり(笑)。

3,000人、10拠点の情報を集めることは大変ですが、幸い社員はCyBARにとても協力的で快く、むしろ嬉々として快諾してくれます。

編:何故そんなに協力的なんでしょうか。「忙しい中で時間をとられたくない」と思われない理由ってなんでしょう。

サイバーエージェントも人数が増えてきて、部署内の人を認識することはできても、部署を超えての情報伝達ってやはり難しいんです。そんな中でCyBARに載ることは、数少ない全社的に認識される機会なので、それを光栄に思ってくれる社員が多いんですよね。

編:ちなみにCyBAR以外に広く情報伝達をするツールはあるんですか?

実は今、事業部単位で紙の社内報が月に1回発行されています。事業部単位でだいたい500人~600人くらいの社員がいますので、社員の顔や人となり、組織内のコミュニケーション活性化はその事業部別の社内報が担っている形です。

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この社内報が始まったきっかけは、インターネット広告事業本部が作り始めたことでした。これの評判が良くて、それを見た他の事業部の人たちも「自分たちも取り入れてみよう」と広まっていきました。

編:インターネット広告事業部の方は、何故紙の社内報を始めたのでしょう。

広告営業や広告運用、メディアの仕入れを行っている社員が多いのですが、営業で外回りをしていると日中オフィスにほとんどいなくて、自分のグループ以外の人と交流が少なくなってしまうんですよね。

同じ事業部内ですので、交流や活性化をもっと促進していきたいという考えからスタートしたようです。作り始めのころは、それこそ普通の紙をホチキスで留めていたのが、どんどん進化していって。今では印刷会社に良い紙で発注するようになっています。MVPを受賞すると表紙に載れる部署もあるみたいですよ(笑)。

編:この表紙は格好いいですね!事業部でそれぞれ作っているとは思えないクオリティです。紙を選んだ理由はあるのでしょうか。

メインターゲットが外回りをしている方々でしたので、忙しい中で読んでもらうにはやはり手にとって読めるものがいいようです。デスクに置いておいて、ちょっと時間の空いたときや業務の隙間時間に手にとってパラパラ読める、というのが大きいんだと思います。

編:社内でWebと紙の社内報が同居している状態ですが、CyBARと各事業部の社内報の違いはどのように考えていますか。

ひとつは情報の違いです。CyBARは全社のロールモデルとなるような人材のインタビューや全社横断の汎用ナレッジ、ケーススタディを載せています。一方、事業部の社内報は部署の特色ある情報やメンバー人となりを載せていて、該当事業部にフォーカスした内容です。

あとは情報の即時性でしょうか。全社的なイベントごとなど、情報によっては月に1度の発行のみでは鮮度が落ちて、社員の興味関心が薄れてしまうものもあると思います。そこで、CyBARはWebの優位性を活かして、情報を伝えたいときに伝える手段として活用しています。

編:記事を作成する上で、宮原さんなりのこだわりポイントはありますか?

沢山書いてもみんな覚えられないので、なるべく短くして配信しています。あまり多いと疲れてしまいますしね。最大でもだいたい3,500文字くらいまでには抑えるようにしています。

あとはCyBAR専用のスマホアプリを開発していて、Webと同じものを手軽に閲覧できるようにしています。忙しくてなかなかパソコンで見られない人も、移動や行き帰りの電車で読めたらいいなって。どれだけ見やすくできるか、スマホ最適化には注力しています。

編:逆に、困っていることや悩んでいることを教えていただけますか?

CyBARに関する決裁権限はすべて私にあります。やはり発信するコンテンツについて、「この内容で大丈夫かな」、「みんなに響くかな」というのは日々悩んでいます(笑)。昨年10月に立ち上がって半年超が経過していますが、まだまだ手探りでやっています。

例えば、記事を出すにしてもキャッチコピーひとつで悩んでいますよ。いくら悩んでも決まらないので、取材対応いただいた方に相談して一緒に考えてもらったり、同じチームの人にいつも聞きに行ったりしています。

みなさん、時間をかけて凄く協力してくれて嬉しいですね。CyBARの専任は一人ですが、一人という感じではないです。沢山の人に協力してもらいながら作っています。

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編:テーマに“業績をあげる”と掲げていますが、どのように実現しようとしているのですか。

肝は「タイムリーに、大量のケーススタディを、事業部横断で流行らせる」ことだと考えています。CyBARで配信することによって、ケーススタディを自事業部で試してみる、活用してみるということが沢山生まれてきたらいいですよね。

7月~9月は”生産性・育成”を切り口にしています。編集長として社内を回ってヒアリングしていると、育成施策や生産性向上のメソッドを持っている人は多いんですよ。俯瞰に長けている人、資料作りが上手い人、会議が上手い人、沢山います。ただ、残念ながらそういうメソッドは埋もれてしまいがちです。

そういうものを風土やカルチャーとして根付かせて解決していきたいんですよね。「会議室は5分前に出ましょう」みたいな細かいルールにはしたくなくて。それが当たり前のカルチャーになるよう、CyBARを通じて醸成していきたいです。

編:確かに、3,000人が今までより5分早く会議を終わらせることが当たり前のカルチャーが根付いたら、相当なインパクトですよね。ただ一方で、CyBARが業績にどの程度つながったか、正直見え辛い部分もあると思います。そこはどのように効果測定していこうとしているんでしょうか。

これは段階的に見ていこうと思っています。

まず当初大事にしたのはGoogle Analyticsによるアクセス解析です。MAU(Monthly Active Users)はリニューアル後、ほぼ社員数の100%に近い数字まで上昇し、ページごとのPV数でみんなが何に興味があるのか、わかってきました。

そこで次は定性的な情報を集めていきたいと思っています。狙いを絞ってコンテンツを配信し、数ヵ月後にアンケートを通じて現場でどのような変化が起きたのかを追っていきたいですね。感想を755で言ってくれる人や直接寄せてくれる人もいるので、そうした生の声を大事にしていきたいです。

編:最後に、編集長として今後CyBARをどうしていきたいですか?

サイバーエージェントで変わらないのは、みんなが目標・成果に貪欲で、しかもイキイキと働いていること。そのあたりのカルチャーが失われないように、一人ひとりのポテンシャルを最大限に活かせる社内報にしていきたいですね。

編:まさにカルチャー推進室という名前通りの狙いですね(笑)。今後、どんなカルチャーを創っていけるんでしょうね。

創ると言ってしまうとおこがましいですが(笑)、サイバーエージェントにもともと存在している良きカルチャーを残していく、あるいは損なわれていないかをチェックしていくことはしていきたいですね。

あとは職種や業態が多様化しているので、時流・社流の変化に合わせて推し進めるべきカルチャーが出てくるのであれば、そこは推進していきたいです。

社内の変化を最も敏感に感じることができるカルチャー推進室だからこそ、できることですよね!

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CAPPY'S EYE

全社を対象に汎用的な情報を鮮度高く発信するWeb社内報と、各事業部ごとの情報をしっかりと届ける紙の社内報。2つの異なる社内報を、その特性を上手く活かして運用していることが印象的でした。宮原さんは編集長として業務の半分をヒアリングや情報収集に充てているそうですが、3,000人から情報を集約するというのは、想像以上に泥臭い仕事ですよね。

筆者

中島浩太

株式会社ゼロイン CAPPY編集部
2008年、ゼロインに新卒入社。総務アウトソーシングや社内イベントの企画・設計を担当。新卒採用担当を経験したのち、社内広報とマーケティング組織の立ち上げに携わる。CAPPYでは編集、インタビュー、ライティング、撮影まで担当しながら、各社の魅力的な取り組みを発信中。
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