インナーブランディングのメリットとは?効果的な施策や注意点を解説

ブランディングには、企業や商品・サービスのブランド価値を社外ステークホルダーに共有することで共感・信頼を醸成するアウターブランディング(エクスターナルブランディング)と、従業員を対象に理念浸透(パーパス、ビジョン、ミッションなど)や企業文化・組織風土の醸成を目的に行うインナーブランディング(インターナルブランディング)の2つがあります。

ブランディングでは広告などで目につきやすいアウターブランディングが注目を集めがちです。しかし、企業と従業員の関係性が変化し、働く選択肢が多様化する現在においては、インナーブランディングの取り組みの重要度が増しています。なぜなら、インナーブランディングは従業員エンゲージメントや働きがいの向上、イノベーティブな組織への変革など、さまざまなメリットをもたらすからです。

この記事では、インナーブランディングの概要や重要性、成功のポイントなどを解説します。インナーブランディングで効果的な施策例や具体的な事例もご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

インナーブランディングとは?対象者と施策の概要対象者は、従業員を中心としたステークホルダー社内ブランディング活動における施策の概要インナーブランディングに取り組む目的とメリット目的1|働きがいや従業員エンゲージメントの向上目的2|従業員の定着率向上目的3|連帯感と企業文化の強化目的4|企業の評価やブランド力のアップインナーブランディングを実施する際の注意点や失敗例中途半端な取り組みは逆効果となる経営・マネジメントが率先垂範で体現する効果はすぐに表れないため、粘り強く取り組む費用・時間のコストが発生するが投資と考える同質的になりきらず、多様性を受け入れるインナーブランディングでよく取り組まれる施策例ブランドプロジェクトブランドブック研修・ワークショップ社員総会・キックオフアワード・表彰社内報・社内SNSでのメッセージブランドムービー・動画を活用サーベイ・社員アンケートインナーブランディングの成功事例事例|プロミス策定とブランドリニューアルで次の100年へ|富士酸素工業株式会社事例|ハイブリッド社員総会で向き合う社会課題解決|株式会社メンバーズ事例|新ビジョンを体感する社内イベント|大和ライフネクスト株式会社様事例|70周年事業で感じる仕事の価値と誇り|東京管公学生服株式会社様事例|オールローソンを実現する社内表彰制度&表彰式|株式会社ローソン様事例|未来へとつながる社内イベント「新社名発表会」|株式会社リバスタ様事例|20周年式典は、100年続く企業を実現する「はじめの一歩」|株式会社ゼロインインナーブランディングの事例一覧インナーブランディングを成功させるポイント全社施策にとらわれない、全社横断の体験設計長期的な目線で取り組むゼロインは、インナーブランディングの設計から実行までサポート社内プロジェクト支援サービスの紹介まとめ関連するお役立ちブログ

インナーブランディングとは?対象者と施策の概要

ブランディングと聞いてまず思い浮かべるのは、CMやブランドロゴ、プロダクトデザインなど、消費者や取引先など社外に向けて自社製品・サービスの良さをアピールして、ブランドイメージの向上や売上拡大につなげる取り組みだと思います。

国内でブランディングが成功している企業やサービスには、東京ディズニーリゾート(株式会社オリエンタルランド)やスターバックスコーヒー、無印良品(株式会社良品計画)や株式会社スノーピークなどが挙げらますし、国外でもAppleを筆頭に「○○といえば○○」と想起できるブランドがあります。

一方で、この記事で説明するインナーブランディング(インターナルブランディング)は、社内の主に従業員に向けて行われるブランディング活動です。従業員が対象の社内プロジェクトであるため、どのような取り組みが行われているのか、詳細な情報や取り組み事例を目にする機会は多くありません。はたして、インナーブランディングには、どのような特徴があるのでしょうか。

対象者は、従業員を中心としたステークホルダー

インナーブランディングは、従業員を対象に行われる社内へのブランディング活動です。

ただ、従業員が中心ではあるものの、インナーブランディングの影響範囲は従業員にとどまらず、従業員の仕事を介してその先のステークホルダーへと波及していくことも想定します。たとえば、従業員の家族はもちろん、消費者や取引先、地域社会もその範囲に含まれます。

インナーブランディングでは、提供する製品やサービス、顧客体験に変化が生まれることも想定されます。東京ディズニーリゾートであれば、パークを訪れたゲストが体感する「統一されたテーマ感」や「働くキャストの心地よい接客」は代表的なブランド価値ですが、その多くはインナーブランディングによって培われます。

主な対象はあくまで従業員ですが、最終的に「顧客・社会とつながる」ことを意識した取り組みが重要です。

社内ブランディング活動における施策の概要

インナーブランディングでは、理念浸透(パーパス、ビジョン、ミッションなど)や企業文化・組織風土の醸成を狙います。従業員が自社への理解を深め、パーパスやビジョンに共感することで、自社製品・サービスの価値や魅力、仕事の意義を再認識し、理念にもとづいた主体的な行動が生まれることを期待します。

詳細は後述しますが、インナーブランディングの具体的な施策には、理念策定や理念再構築プロジェクト、ワークショップ、ビジョン映像や社内報などが挙げられます。経営や事務局だけで行うものではなく、積極的な従業員の巻き込みや、社内向けメディア(映像、紙、ウェブ)を活用しながら、理念や目指す方向性に対する理解・共感を促していきます。

ほかにも、5年や10年ごとに訪れる周年記念の機会をインナーブランディングに活用する企業も増えています。周年記念は「過去を振り返る」と同時に、「未来を思い描く」ことが自然にできる機会です。そのため、社員を巻き込んでビジョン・ミッションや自分たちらしさを考えるプロジェクトを行いやすい環境になります。

※この周年記念を活用したインナーブランディングの考え方を動画セミナーに整理しました
動画セミナー「インナーブランディングに活用する企業周年の考え方~基礎編・事例編~」視聴はこちら

インナーブランディングに取り組む目的とメリット

企業にとって重要度の高まるインナーブランディングですが、積極的に取り組むことで社内外に多くの好影響をもたらします。どのような目的のもと、どのような効果を狙って企業がインナーブランディングに取り組んでいるのか。代表的な4つの目的例とメリットを紹介します。

目的1|働きがいや従業員エンゲージメントの向上

インナーブランディングを通じた、会社の理念や価値観、中長期的に目指す方向性の明確化と共有は、従業員にとって「この会社で働く意味」や「自分の仕事の価値」を実感する機会となり、働きがいや従業員エンゲージメントを高める一因となります。ある意味、従業員エンゲージメントの向上には、インナーブランディングの取り組みが前提になるといっても過言ではありません。

従業員エンゲージメントとは、企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていることを指す。言い換えれば、組織の目指すゴールに対する「自発的貢献意欲」を意味する。

※引用:https://www.wtwco.com/ja-JP/Insights/2019/10/hcb-nl-october-yoshita-okada

従業員エンゲージメントには、会社が「何を大事にしているのか」「何を目指しているのか」といった“組織のゴール”の理解が不可欠です。その会社で働く一人ひとりが仕事の意味や意義をあらためて考え直し、「組織のゴールを実現したい」と心から共感したときに、自発的な行動へとつながっていきます。

目的2|従業員の定着率向上

従業員の定着率向上も、インナーブランディングで期待できる効果のひとつです。

人材の流動化や働き方の多様化が進み、労働力人口が減少する現状において、優秀な人材の定着率は重要な経営課題です。「働く」の選択肢が増える中で、労働者から“選ばれ続ける”企業になるには、インナーブランディング活動を通じた「会社と従業員」「従業員同士」のつながりづくりが重要になります。

特に、成熟した豊かな社会で育った若い世代を中心に、仕事の価値を「金銭報酬」や「出世・名誉」ではなく、「社会貢献」や「社会的意義」を大事にする意識変化も生まれています。会社が「何を目指しているのか」を共有し、働く一人ひとりが「自分はこの会社で何を実現したいのか」を考える機会をつくり、そうして会社と個人のビジョンが重なったときに、その会社で働く(働き続ける)理由が生まれます。

従業員の定着率向上は、人材不足による事業活動の停滞を防ぎ、採用にかかる人件費・外注費の削減にもつながるため、経営効率にも大きなインパクトを与えます。

目的3|連帯感と企業文化の強化

インナーブランディングによって、会社が「何を目指しているのか」「何を大事にしているのか」が伝わり、従業員一人ひとりの「この会社で働く意味や意義」が確かなものとなることで、核となる理念・価値観でつながった、連帯感を持った強い組織が生まれます。

会社の方向性や判断基準の明確化は、企業内のコミュニケーションスタイルや企業文化に変化をもたらします。チャレンジやイノベーションといったスタンス面の価値基準を掲げる会社もあれば、グローバルやテクノロジーといったキーワードで、自社が価値を発揮したいフィールドや高めていきたい強みを定める会社もあります。

“自分たちらしさ”が全社共通の軸として言語化されることで、事業戦略や組織マネジメントにおける優先順位や判断基準が明確になるため、一貫性をもった組織づくりができるようになります。

目的4|企業の評価やブランド力のアップ

インナーブランディングでは、企業が目指す理念やブランドを共有することで、従業員一人ひとりから理念・ブランドの体現行動を生みだすことを目指します。

従業員が自分の仕事に向き合い、理念・ブランドを体現する行動の総量が増えていくことは、必然的に自社製品・サービスの品質を高めることになります。さらに、自分たちの製品・サービスに自信を持つことで、従業員エンゲージメントが向上し、さらなる自発的な行動を促進する好循環へとつながります。

結果、より良い製品・サービスが顧客・消費者へと届き、社会から得られる企業の評価やブランド力が高まっていくことが見込めます。

インナーブランディングを実施する際の注意点や失敗例

インナーブランディングは、VUCAとも呼ばれる変化の激しい時代において、根底の部分が共通の価値観でつながった、しなやかで強い組織づくりに効果的な取り組みです。しかし、中途半端な取り組みは、従業員からの信頼を損ね、ブランドを毀損する恐れがあります。どのような点に注意すればよいのかを解説します。

中途半端な取り組みは逆効果となる

インナーブランディングで起こりがちな失敗パターンとして、「目標が曖昧なまま開始して、いつの間にかプロジェクトが自然消滅している」「知らない間に荒唐無稽なビジョンが発表され、誰からの共感も得られない」などが挙げられます。

ブランドは上意下達では創られず、従業員の共感と行動が不可欠です。手間を惜しんで経営層だけでブランドを策定し、それを従業員に“やらせよう”としても、逆に経営層と現場との距離が生まれてしまいます。

会社の前向きな変化に期待をした従業員がいた場合、経営や会社への信頼や信用が損なわれてしまう恐れがあり、逆効果になる恐れがあります。

経営・マネジメントが率先垂範で体現する

大きな青写真を描いても、「従業員にやらせよう」という管理型のマネジメント意識では上手くいきません。経営や各事業長が発信するメッセージに一貫性があるか、表彰やアワードで表出される仕事は「会社のありたい姿」を体現する仕事か、上司がトップメッセージを否定したり違うことを言ったりしていないか。

従業員は、インナーブランディングで発信されるメッセージと、会社や管理者層の行動や発言に乖離があればすぐに気づきますし、「本気でやるつもりはないのだ」と認識してしまいます。

インナーブランディングとは、理念浸透のための大きな社内イベントやブランドブックといった目立つ施策だけではなく、従業員が働く中で受け取る情報やマネジメントシーンの一つひとつがその機会です。経営・マネジメントこそが最たるブランド体現者であることを意識して、率先垂範で実現していく必要があります。

効果はすぐに表れないため、粘り強く取り組む

インナーブランディングでは、多くの場合、旧来の理念や価値観を見直すことから始まります。そうして、現在の延長線上に「ありたい姿」を描く場合もあれば、まったく新しい挑戦を掲げてピボットする場合もあります。

いずれにしても、あらためて定義した会社として実現したい「ありたい姿」をもとに、その実現に向けたプロセスを計画・立案し、インナーブランディングを実行することになりますが、それまでの文化や慣習に染まった人間の意識や行動はすぐに変わるものではありません。当然、プロジェクトの開始から効果が表れるまで、相当の時間がかかります。

特に、理念策定などを行う場合には、理念に関する議論を繰り返した経営陣・プロジェクトメンバーと現場従業員とでは、策定の背景や議論のプロセスなどの情報量に差があり、ブランド理解度に大きな差が生まれます。つい「みんなも理解している」と勘違いしがちですが、前提から何度も繰り返し伝えることが重要なこともあります。

実行と振り返りを繰り返し、軌道修正しながら効果を高めていくので、中長期的な取り組みだと理解したうえで始める必要があります。

費用・時間のコストが発生するが投資と考える

企業によって実行する施策は異なりますが、たとえばCI刷新や映像制作、ウェブサイト、社内コミュニケーションツールの運用や社内イベントなど、インナーブランディングの取り組みにはコストが伴います。また、インナーブランディングのノウハウがない企業は外部のコンサルタントの力を借りる必要も生じます。

さらに、プロジェクトを取り仕切る事務局の人員を確保する必要がありますし、ブランドオーナーとなる経営陣はもちろん、インナーブランディング施策に参加する従業員の時間まで換算すると大きなコストになります。1日の営業活動を止めて、理念だけを考える社内イベントを実施している会社もあります。

いずれにしても、まったくコストをかけずにインナーブランディングを実行することはほとんど不可能です。何を、どこまで取り組むか、中長期のインナーブランディング戦略を立て、投資として予算を確保していくことが求められます。

たとえばリクルートグループでは、ビジョン・ミッションに寄り添う『VISION MISSION DAY』を実施しています。リクルートはプロダクトとともに営業力の強い会社としても有名ですが、営業活動を止めてまでビジョン・ミッションや自社ブランドに向き合う価値があると考え、大きな会場を借りてイベントを行っています。

同質的になりきらず、多様性を受け入れる

ビジョンやミッションなど会社の「ありたい姿」を明示することで、従業員一人ひとりの方向性が統一され理念に従った行動が生まれやすくなる点は、インナーブランディングのメリットです。

しかし、異なる価値観を持つ従業員が排除される恐れがある、というデメリットも潜んでいます。「誰をバスに乗せるか」という話に近いかもしれません。同質的なことが問題なのではなく、価値観の多様性が失われた結果、組織の硬直化やイノベーションの喪失につながる可能性も視野に入れる必要があります。

核となる、譲れない価値観は何なのか。一方で、多様であるべきことは何なのか。組織の広がりを意識したインナーブランディング戦略が重要です。

インナーブランディングでよく取り組まれる施策例

インナーブランディングは、実施背景や狙う効果によって、各社でさまざまなな施策が行われます。施策はあくまで手段であり、施策ありきでインナーブランディングを考えることは避ける必要があります。しかし、施策から取り組みの全体像を把握することもできます。ここでは、インナーブランディングを実施する際によく取り組まれる、代表的な施策例を紹介します。

ブランドプロジェクト

もっとも効果的な施策は、インナーブランディングの取り組み自体をプロジェクト化して、従業員を巻き込んだインナーブランディング施策にしてしまうことです。

「どのようなプロジェクトにしたいか?」からはじまり、理念やブランドの策定から、具体的な浸透施策の企画・実行まで、従業員が主体となって実施します。自分たちで考えた未来だからこそ、「これを実現したい」や「ワクワクする」といった内側から湧きあがる感情が生まれます。

静岡県で創業100周年を迎えた富士酸素工業株式会社では、100周年を機に「次の100周年」へと一歩を踏みだすためのブランドプロジェクトに取り組みました。いま在籍している社員でプロミス(経営理念)を策定し、CIやユニフォームなど、共通したブランド戦略のもとで社員主体のブランディングを行っています。

ブランドブック

理念や目指す方向性を言語化することで、いつでも立ち返れるツールがブランドブックです。

ビジョンやミッションは、メッセージ性や分かりやすさから、最終的には研ぎ澄まされたシンプルな言葉として表現されることが多い傾向にあります。しかし、その裏にはこれまで歩んできた歴史や文化・文脈、プロジェクト参加メンバーが議論した、大きなストーリーがあります。そうしたストーリーは、年に1回や2回のイベントなどで伝えきることは難しいものです。また、人によって理解度に差があるので、じっくりと読み込める形式で残すことが効果的です。

株式会社アカツキでは、共同創業者である塩田元規さんと香田哲朗さんが4ヶ月、100時間以上をかけて作った、『Akatsuki Heart』と名付けられたアカツキの哲学が存在しています。その哲学を社内に浸透させるためにブランドブックを制作しています。

研修・ワークショップ

理念やブランドはただ見たり聞いたりするだけでなく、自分で考え、発信し、仲間の多様な意見を聞くことで、輪郭が定まり、理解度が向上していきます。

自分の仕事紹介や会社の好きなところ、働いていて嬉しかった瞬間や理念を実感した原体験など、一人ひとりがエピソードを持っているはずです。同部署内のいつものメンバーで行えばより具体的な会話ができますし、さまざまな部署や役職の異なる従業員を交えれば別視点からの気づきや広がりが生まれます。

また、単純に同じビジョンを実現しようとしている仲間がいることを実感するだけでも心強いものです。従業員が「自分の口で語る」ことで参加感の高い施策として、研修・ワークショップはおすすめです。

株式会社メンバーズは、メンバーズグループ16社約2,300人が参加するグループ社員総会において、ミッション・ビジョンにじっくりと向き合う『Social Value Meeting(ソーシャルバリューミーティング)』のコンテンツを設けています。この中でワークショップを行い、社員一人ひとりが日々の業務を通じて発揮していきたい社会的な価値や成し遂げたいことを『Social Value宣言』としてチームでまとめ書き出し、全社に共有して浸透・理解促進に取り組んでいます。

社員総会・キックオフ

社員総会・キックオフにおけるトップメッセージや方針発表でも、常に発信の場を設けることが重要です。ビジョンやミッションは重要ではあるものの、従業員にとっては目の前の仕事が優先であり、日々流されてしまうものです。

「自分たちはどこに向かうのか」「なぜ自分たちがやるのか」など、社員総会・キックオフといった非日常の空間でインパクトを持って伝えることで、重要なメッセージなのだと会社のスタンスを示せます。

アワード・表彰

インナーブランディングでは、「理念にもとづいた主体的な行動」を生みだすことが、ひとつのゴールです。そうした現場で生まれた行動や変化の兆しを、アワード・表彰の場で全社に表出することで、会社が本気で後押しをしている姿勢を示すことができます。

さらに、単純に表彰するだけでなく、行動のポイントやスタンスを共有することで、ほかの従業員の学びや感動へとつながります。企業によっては、業績表彰のほかに理念表彰を新設して、別軸で表彰する会社もあります。この場合、業績には報酬で、理念には栄誉で還元する傾向にあります。

ブランド体現の兆しや事例に積極的に光をあてて称賛・共有することで、「会社が増やしたい行動はこういうことか」と理解を深めてもらい、やってみたいと内発的な感情を生みだすことで、いい循環へとつなげていきましょう。

社内報・社内SNSでのメッセージ

社内報や社内SNSは、定期的にメッセージを伝える効果的な媒体です。経営陣からのメッセージや従業員インタビュー、社内プロジェクトの様子など、さまざまな目的に活用できます。

メッセージする場合、「誰」が発信するかも重要なポイントです。社内の関係者だけでなく、ときに顧客や消費者からの感謝や期待の声を届けることで、社外から見た自分たちの“らしさ”や強みに気づきを与えることもできます。

ブランドムービー・動画を活用

動画は、テキストよりも多くの情報を、わかりやすく伝えられます。編集・演出のつけ方によっては、大きなインパクトをもって印象的にメッセージすることもできます。

ほかにも、映像は比較的自由な表現ができることも特徴です。たとえば、歴史を疑似的にさかのぼることもできれば、まだ実現していない未来を仮想的に描き、「20X0年に自分たちはどうなっているか」など、未来を想像させるような映像をつくることもできます。

また、ここでも普段は会えない顧客や消費者のインタビューを集めることで、仕事の意味や価値をリアルに感じさせる方法もあります。

サーベイ・社員アンケート

サーベイ・社員アンケート自体はインナーブランディング施策ではありませんが、取り組みの効果的を高めるために重要な施策です。

企業理念の浸透度や満足度など、定期的に測定することで、インナーブランディング戦略を立て、見直す根拠になります。

インナーブランディングの成功事例

ここでは、ゼロインがプロデュースしたインナーブランディングの成功事例を紹介します。

すべてのインナーブランディングの取り組みに共通することは、目指すビジョン・ミッションがあり、このビジョン・ミッションにもとづいて会社・組織あるいは社員一人ひとりの目指したい具体的な状態・行動を「ありたい姿」として明確にしていることです。「ありたい姿(状態・行動)」が明確になることで、この「ありたい姿」を実現するために何をしなければならないのか、目的設定や課題設定が可能になり、具体的なインナーブランディング施策へとストーリーをもって落とし込んでいけるようになります。

事例|プロミス策定とブランドリニューアルで次の100年へ|富士酸素工業株式会社

静岡県東部エリアを中心に、法人・個人向けのガス事業を展開している富士酸素工業株式会社様は、創業100周年を迎えました。富士酸素工業様はこの100周年を迎えるにあたり、5年以上前から周年プロジェクトを立ち上げ、「次の100年」への一歩を踏みだす準備を進めてきました。

そして、プロミス(経営理念)を従業員主体で策定するプロミス策定プロジェクトや、CI(会社ロゴ)・ユニフォームのリニューアル、従業員や取引先・消費者を対象にしたイベントなど、さまざまな周年記念施策を1年以上かけて順次、展開しています。

プロミスの共有を受けて、従業員が車座で想いや、未来に向けた行動を共有

事例|ハイブリッド社員総会で向き合う社会課題解決|株式会社メンバーズ

株式会社メンバーズは、メンバーズグループ16社(2022年6月開催時点)の社員、約2,300人が参加するグループ社員総会を、オンラインとオフラインを掛け合わせたハイブリッドイベント形式で実施しており、この社員総会の中で会社の模範となる取り組みを共有する『Social Value Award』を行っています。

『Social Value Award』の場では、事前エントリーの中からミッション・ビジョンを体現する10組の取り組みが選ばれ、その取り組み内容を全社員にプレゼンテーションしています。

この社員総会では、ワークショップ内で行われる「社員同士の対話」に重きが置かれています。社員一人ひとりが、日々の業務を通じて発揮していきたい社会的な価値や成し遂げたいことを『Social Value宣言』としてチームでまとめ書き出し、全社に共有しています。

「その日だけ話して終わり」といった一過性のイベントにせず、日々の仕事や日常の中で、社会課題解決に向けた行動や会話を継続的に発生させ、メンバーズのカルチャーとして根づかせることを意図しているのです。

事例|新ビジョンを体感する社内イベント|大和ライフネクスト株式会社様

大和ライフネクスト株式会社が社内イベント内で実施したトークセッションの様子

大和ライフネクスト株式会社様は、新しいビジョンと行動方針『DLN SPIRIT』を策定し、その内容を従業員に共有するお披露目イベント『DLN Spirit Day』を実施しました。約2,000名の従業員が集まる中、役員とビジョン策定プロジェクトメンバーが各々の想いを語りました。

イベントは、『DLN SPIRIT』を共有するシェアードビジョンと懇親会の二部構成で行われました。企業の新しい方向性を伝える重要なイベントのため、参加者の気持ちをいかに高めるかにもこだわり、光を使った演出や、社長が練り歩きながら映像を活用して発表するスーパープレゼン形式を活用しました。

トークセッションでは、「ただ発表を聞く」スタイルではなく、リアルタイムに投票やコメントをシェアできるシステムを利用することで、参加者を巻き込み、反応を確認しながら進行しました。

大和ライフネクスト株式会社が社内イベント内で活用した投票・コメントシステム トークセッションではスマホを利用して、従業員がリアクション

新しいビジョンと行動指針は、経営陣のワークショップと従業員参加型のワークショップを実施し、「社員みんなでありたい姿を描きたい」という社長の想いを実現しました。みんなで考えて決めたからこそ、「自分たちで実現したい」と本気になって行動が生まれていきます。

イベント後には、策定の背景や込めた想いを確認できるブランドブック『SPIRIT BOOK』を配布し、いつでも原点に立ち戻れるようにしています。また、『DLN SPIRIT』を体現した行動を称賛・共有する『DLN SPIRIT AWARD』も企画・開催し、全社で推奨していく大きな流れをつくっています。

事例|70周年事業で感じる仕事の価値と誇り|東京管公学生服株式会社様

東京管公学生服株式会社が70周年事業で作成したオープニング映像

学生服・体育着の企画製造販売を行う東京菅公学生服株式会社様の70周年イベントです。従業員を対象に、リアルタイムのオンライン配信と、従業員が3つの会場に分かれて集合するハイブリッド形式で行いました。

イベントでは、ユーザーである生徒さんや親御さんから学生服にまつわる素敵なエピソードを集めるコンテストや、経営層が歴史を振り返りながら従業員に70周年を迎えられたことの感謝を伝えるトーク番組を開催しました。

後半には、ブランドムービーを上映し、具体的な中長期のビジョンと戦略をシェアしています。そして、未来を思い描きながら、従業員同士で仕事の価値や誇りなど、自分の思いを伝えあうワークセッションを行いました。

東京管公学生服株式会社が70周年事業で実施したワークショップ 自分たちが取り扱う「制服」とは何か、自分の想いを共有

事例|オールローソンを実現する社内表彰制度&表彰式|株式会社ローソン様

株式会社ローソン様は、ナレッジ共有と表彰を行う『自律型挑戦大賞』を実施しています。現場で生まれた“いい仕事”を全社員の前で称賛することで、一人ひとりが新しい気づきを得ることや、褒め合うことでのモチベーション向上が目的です。

『自律型挑戦大賞』は、1年に1回、全社から個人またはプロジェクトの自薦エントリーを募ります。その後、何段階かの審査を行い、全社員の前でプレゼンテーションする数件の取り組みを選出します。そして、最終的にイベントの場で、最優秀賞が決定します。

社内から自発的な挑戦を増やすために、3ヶ年の浸透・定着プランを立てました。1年目は「『自律型挑戦大賞』のことを知る」、2年目は「ワガコトとしてとらえる」、3年目は「もっと主体的にとらえ、全体化する」と、年々進化していくプランです。

プレゼンされた取り組みは、全社に展開されたものもあります。「自分たちの提案で会社を変えられるんだ!」と、少しずつ社員の意識や社内の文化に変化が生まれています。

事例|未来へとつながる社内イベント「新社名発表会」|株式会社リバスタ様

株式会社リバスタ様は社名変更を行い、従業員を対象にした社内イベント『新社名発表会』を実施しました。この『新社名発表会』では、社名変更の経緯や新社名に込めた想い、そして今後の展望を全社に直接共有する機会を設けています。

イベント開催前には、1年かけて社名変更のプロジェクトに取り組んでいます。なぜなら、社名だけではなく、CI(コーポレート・アイデンティティ)を構成するミッション、ビジョン、バリュー、コーポレートロゴやタグライン、社名に込めた想いのストーリーまで一気に再策定しており、企業の大きな転換点ともいえるプロジェクトだからです。

社名変更は単に言葉が変わるだけではなく、新社名や新CIによってステークホルダーが持つブランドイメージを変えることも必要です。そこで、従業員一人ひとりが日々接するステークホルダーに「リバスタとは」を直接伝えられるよう、新しいブランドについて正しく理解できる機会が『新社名発表会』でした。

事例|20周年式典は、100年続く企業を実現する「はじめの一歩」|株式会社ゼロイン

当社の設立20周年では、1年をかけて従業員参加型の周年プロジェクトを実施し、企業理念・ビジョンをリニューアルしました。

企業理念・ビジョンのリニューアルでは、経営陣・管理職が中心となって、ゼロインを「過去から現在」「現在から未来」の視点で丁寧に紐解きながら、半年の期間をかけて年度も議論を重ねて策定したものです。

この企業理念を、周年プロジェクトの集大成となる20周年式典の場で、創業者である代表が、自身の原体験や創業の思いを交えながら共有しました。さらに、新しい理念を従業員がどのように理解し、どのように自分自身の仕事と紐づけて行動していくのか、テーブルに分かれてビジョンワークを実施しました。新しい理念が書かれた大きな模造紙を目の前に、一人ひとりが自由に書き込んでいきました。

各自が「理念を体現している仕事のエピソード」を書き出し、同じテーブル内の仲間に伝えることで、新しい理念は遠い未来の話ではなく、一人ひとりがすでに価値提供している延長線上にあるのだと感じられることを意図したワークです。最後には、代表者がテーブルでどのような会話がなされたのかを会場全体に共有することで、全社が一体となってビジョンに向かって進んでいくのだ、という方向性が明確になりました。

式典の後半では懇親会も行い、オープニング映像やオープニングアクト、芸能大会、社長へのサプライズ演出など多彩なコンテンツで場を盛り上げ幕を閉じました。

今回の周年プロジェクトでは、企業理念・ビジョンのリニューアルや周年式典のイベント企画・運営、社史、周年ロゴづくりは社内に参加者を呼びかけ、みずから手を挙げた主体的なメンバーの分科会活動によってつくりあげられました。

インナーブランディングの事例一覧

ここで紹介した以外にも、企業のインナーブランディングの事例を掲載しています。

インナーブランディングの事例一覧はこちら

インナーブランディングを成功させるポイント

先述の通り、インナーブランディングは内容が不十分なまま実行しても逆効果です。以下のポイントを押さえながら綿密に計画を立てて実行する必要があります。

全社施策にとらわれない、全社横断の体験設計

インナーブランディングの打ち手は、象徴的なロゴやイベント、ブランドブックなど全社で取り組まれる広報施策に注目が集まりがちです。しかし、従業員の立場で考えると、育成や評価といった人事施策、各事業や部署単位で実施される施策、管理職やリーダーの関わり方など、さまざまな要素が複合的に関わってきます。

インナーブランディングを戦略的に成功させるには、組織と人の「ありたい姿」について、ゴールや段階的な状態目標を決め、それらを実現するコミュニケーションの全体像を、従業員体験の視点で描くことから始まります。大きなブランドメッセージを発信したとき、「言っていることと、やっていることが違う」「人によって言うことが違う」「結局、旧来のやり方が評価される」など従業員を迷わせてしまうと、プロジェクトは停滞してしまいます。

経営やインナーブランディングの事務局だけでなく、評価制度や表彰制度、管理職向けのマネジメント研修、広報あるいは新規事業提案制度まで、全社施策にとらわれずに網羅的にケアして設計する必要があります。

長期的な目線で取り組む

インナーブランディングの計画と実行・効果測定・改善は1度だけでなく、何度も繰り返しながら効果を高めていくことが大切です。そのため、インナーブランディングは長期的な目線で取り組むことがセオリーと言えます。

施策によっては数年にわたる計画で進めるべきプロジェクトも存在し、急いで効果を出そうとすると失敗に終わる可能性もあるため注意が必要です。PDCAサイクルを複数回繰り返し、効果が現れるまで根気よく取り組みを続けましょう。

ゼロインは、インナーブランディングの設計から実行までサポート

インナーブランディングのメリットを十分に享受するには、中長期的な目線でブランディング戦略を計画する必要があります。しかし、対応できるノウハウやリソースがなく、どこから手をつければ良いのか、どこまでやればいいのか、分からず実施に踏み切れない企業様も多いのではないでしょうか。

「インナーブランディングの基本的な取り組み方や考え方を知りたい」「パーパスやビジョン・ミッションの見直しをはかりたい」「ビジョン・ミッションや“らしさ”を社内により浸透させていきたい」など、インナーブランディングで生まれるお悩みは、年間200件以上の豊富なプロデュース経験にもとづいてインナーブランディング支援を提供する株式会社ゼロインにご相談ください。

社内プロジェクト支援サービスの紹介

ゼロインではインナーブランディングにおける「策定・共創」「展開・浸透」「表出・推進」といった実行プロセスをトータルでサポートします。

特にコミュニケーション戦略のプランニングとプロジェクトマネジメントを得意領域としており、従業員を巻き込み、共感を高めながらプロジェクトを進めるコンセプト策定や、ワクワクするような企画立案を評価いただいています。経営の実現したい“ありたい姿”と、従業員の“ありたい姿”を照らし合わせながら、従業員の意識と行動を生みだすブランドを創りあげ、目的や組織のカルチャーに合わせて浸透施策に落とし込みます。

要件や方針が明確に定まっていない場合でも、サポート内容や事例をご案内しつつ情報整理からお手伝いしますので、お気軽にお問い合わせください。

インナーブランディングに関する相談はこちら

まとめ

インナーブランディングとは、主に従業員を対象としたブランディングのことです。理念策定・見直しや社内イベント、社内報や動画といったメディアを通して活動します。

企業が掲げるビジョンや方針といった“ありたい姿”を従業員一人ひとりが理解・共感し、“ありたい姿”を実現に導く意識・行動の創出を目的に行います。アウターブランディングと合わせて推進したい取り組みですが、すぐに効果が出たり、劇的に変化が生まれたりするものではありません。中長期的なインナーブランディング戦略のもの、従業員を巻き込みながら継続的に取り組み続けることが重要です。

社内にインナーブランディングのノウハウがなく、基本的な考え方や取り組み方から知りたい方は、ゼロインがサポートいたしますのでぜひご相談ください。

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この記事の著者

中島 浩太

株式会社ゼロイン
2008年、株式会社ゼロインに新卒入社。インナーブランディング・社内コミュニケーション施策をプロデュースするコミュニケーションデザイン事業、ゼロインの管理部門、新卒採用担当、新規事業を経て、現在はコーポレートブランディング室において広報(社内広報・社外広報/PR)とマーケティングを担当。
インターナルブランディングの魅力的な取り組みを紹介するウェブメディアCAPPYの編集長として、さまざまな企業における企業文化づくりや組織活性化の取り組みを取材。

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