2018/07/06

知識と体験の機会で“らしさ”を育む、アカツキの理念浸透モデル

「感情を報酬に発展する社会」を社会ビジョン(夢みている未来の社会)、「ゲームの力で世界に幸せを」をミッション(私たちが存在する理由)に、モバイルゲーム事業とライブエクスペリエンス事業を展開する株式会社アカツキ。2010年の設立以来、“偉大な幸せ企業”を目標に大きな成長を続けています。

その成長の裏には、『Akatsuki Heart』と名付けられたアカツキの哲学が存在しています。この哲学は2014年5月、共同創業者である塩田元規さん(代表取締役 CEO)と香田哲朗さん(取締役 COO)のふたりが4ヶ月、100時間以上をかけて作った言葉です。

こうした言葉は、単に形にしただけでは従業員には浸透せず、日々の業務に埋もれて忘れられがちです。そこでアカツキではこの哲学の浸透を、『人事企画室WIZ』がミッションとして担っています。(このWIZは魔法使いを意味する“Wizard”から取っているのだとか)

はたして人事企画室WIZは社内にどのような魔法をかけているのでしょうか。室長の坪谷邦生さんと小能拓己さんに、魔法の秘密をお聞きしました。

編集部(以下、編):おふたりは人事企画室WIZという珍しい名前の部署に所属されていますが、どのような経緯でアカツキの魔法使いとなったのでしょうか。

坪谷さん:私は原子力発電所のエンジニアとして社会人キャリアをスタートさせました。ところが職場の労働環境に問題を感じて、その改善を求めて社長に直談判したところ「だったらお前がやれ」と人事に異動となりました(笑)。それから20年、人事領域で仕事をしています。

これまでIT企業の人事マネジャー、人事コンサルタントとして50社超の人事制度・組織開発を担当し、その過程で蓄積してきたノウハウをもとに人事企画に挑戦したいという想いから2年前にアカツキに入社、人事企画室WIZを立ち上げました。

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小能さん:私はマーケティングリサーチ企業に新卒で入社し、アカツキには2014年に入社しました。当初はマーケティングと人事の兼任でしたが、3ヶ月後には人事にフルコミットすることになりました。

採用担当を経て、『Akatsuki Playful Party』という社内の組織活性を担当する部署で1年半活動しました。その後、人事企画室WIZと統合し、現在は5つの領域のうち『HEARTFUL』領域を任されています。

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編:5つの領域があるとのお話ですが、それぞれどのようなミッションを持たれているのでしょうか。

坪谷さん:立ち上げ当初は『DEVELOPING(人材育成の促進)』『ARCHITECT(人事制度などの仕組みづくり)』『GUNSHI(リーダーの直接支援)』という人材マネジメントに関わる3つの領域から始まっています。

途中から小能たちがジョインしたことで、『HEARTFUL(アカツキらしさを未来につなげる)』『ASOBIST(意志あるメンバーの直接支援)』、この組織活性化の2領域が加わり、5領域となりました。

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小能さん:アカツキは“偉大な幸せ企業”を目指しています。この偉大とは、アカツキに関わるすべての人を幸せにしながら、同時に事業としても大きな成果を出すことを意味しています。そこそこの成果・規模ではなく、世界に影響を与えたり人々の価値観を変えたりする突き抜けた企業です。

塩田あるいは香田の中にあった信念は、アカツキが目指したい姿や“アカツキらしさ”として、2014年に『Akatsuki Heart』、2017年には『アカツキのコトノハ』としてまとめられています。『HEARTFUL』領域は、こうした“らしさ”をきちんと伝えることが役割になります。

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編:『Akatsuki Heart』は塩田さんと香田さんが100時間を費やして言語化されたとブログで拝見しました。組織が急成長する多忙な時期に、経営者がそれだけの時間を捻出するのは非常に困難だったと思います。そこからおふたりの熱い想いが感じられます。

『Akatsuki Heart』と『アカツキのコトノハ』はメンバーにとって大きな存在だと思いますが、それぞれどのような役割を担っているのでしょうか。

小能さん:『Akatsuki Heart』は土台となるアカツキの哲学で、『アカツキのコトノハ』はアカツキの哲学を体現するメンバーの物語集です。

『アカツキのコトノハ』を途中で制作した理由ですが、『Akatsuki Heart』には言葉だけでは伝えられない物語や背景、前提や考え方などがたくさん含まれています。採用説明会や塩田が入社者に向けてメッセージする場で触れられていましたが、直接のメッセージだから響く側面はありつつも、単発的で限定的に終わる課題をどうにかしたいと思っていました。

そうした文脈を含めて読み物として伝えられるツールがほしかったのと、メンバーが『Akatsuki Heart』をどのように理解・共感して、どういう形で体現しているのかを表現してみたかったんです。

そこで、一人ひとりがアカツキの哲学に従って取り組む“コトの葉”、“言の葉”を通じて、新しい“コトの始まり”を生みだすきっかけにしたいと『アカツキのコトノハ』を作りました。メンバーの増加や企業として進化することで、常に新しいコトや言が追加され、編纂され続けていくものだと考えています。

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坪谷さん:塩田は20歳のときに企業を木に例えています。ビジョン・ミッションが幹で、メンバーは葉、土に埋もれている根っこの部分が経営者の考え方で深ければ深いほど立派な幹ができあがります。実際に輝いたり実をもたらしたりするのは葉の部分であるメンバーで、お客様や社会という外からの光や栄養をいただきながら育つイメージです。

この考え方をもとに、メンバーを葉に例えながら冊子にするコンセプトになりました。

編:理念やツールのつながりをしっかりとイメージされているのですね。ただ、そうした理念が何を意味しているのか、事業や自分とどう紐づくのか、定義や浸透に苦慮している企業も多いと思います。

また、言葉ができたタイミングで在籍していたメンバーと、その後に入社したメンバーとでは理解度の差、共感の差が生まれてくると思います。『HEARTFUL』ではどのように取り組まれているのでしょうか。

小能さん:まさに、「理解」「共感」を経て、具体的に行動に落ちてくるまでをどうデザインするかが大事だと思っています。ただ、言葉を唱和・記憶するだけで何かが変わるとは考えていなくて、重要なことはしっかりと理解した上で腑に落ちているか、体験や実感をもとに、自分の言葉で語れるか。入社して半年経つころには、理解・共感・具体化のサイクルが日常の仕事の中でまわっているのか、という観点からPDCAを回しているところです。

たとえば、『Akatsuki Heart』では「成長とつながり」について言及しています。この“成長”が何を意味しているのか、“つながり”とは何なのか。これらを自分の言葉で語るためには、 “成長”や“つながり”というものを深く考えたり、自身が身をもって体験したりする機会が必要です。これらは書籍や単発施策のみならず、習慣のデザインで、より深まりのあるものになるのではと考えています。

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坪谷さん:この知識と体験の機会創出を、アカツキでは『らしさの種まき』と呼んでいます。知識だけでは言葉の表面的な部分しか伝わらないことがあるので、『知識の種』と『体験の種』、両方の機会をデザインすることで、より深い共感を生みだそうとしています。

編:「体験の種をまく」とは具体的にどういうことでしょうか。

坪谷さん:たとえば先日、役員のバースデーを18年入社の新入社員が企画しました。新入社員たちは社内をどう巻き込むのか、どうしたら受け入れられるのか必死に考え、周囲のフォローを得ながら企画を作り成し遂げました。

最終的に役員が子供のようにはしゃいだりするほど喜ぶ会になったのですが、これを生み出す過程そのものも、体験の種だと思っています。アカツキの社会ビジョンである「感情を報酬に発展する社会」はさまざまな解釈ができますが、要は「お金をもらえるからやる」のではなく「自分の喜びを原動力に、価値を生みだす」ということです。

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小能さん:私たちの事業も今回のような誕生日の企画も、人の心を動かす体験を届ける意味で同じものです。イベントが終わったときに、「誰かを喜ばせるっていいな」という感情が何人かのメンバーに残っていたら、それで体験の種まきになっています。

ゲーム事業はひとつのゲームが完成するまでに1~2年かかるのは当たり前で、その間はユーザーの声がまったく聞けないということも起こりえます。しかし社内外の日常の中に、心を動かす体験はあるはずです。

誰かの心を動かすことを仕事にしている以上、日常の中にある機会の一つひとつをどれだけ体験の種だと見立てられるかが重要です。日常のすべては体験の種になり得るんですよね。

イベントでなくとも、何か無茶なお願いごとをしてしまったときにお礼にお菓子を渡すとか、悩みのあるメンバーをランチに誘って相談に乗るとか。研修や非日常の体験というよりは、ささいなところにも体験の種はあると思っていて、日常の中で心の動きに気づけるようになることが目指している状態です。

幸せの閾値、感謝の閾値を下げることで、人格的にも成長していきたいと考えています。

編:喜びや感謝などの感情がキーワードになるんですね。種まきの場としては、半年に1度実施される合宿も該当するのでしょうか。

坪谷さん:確かに大きな場として合宿はあります。ただ、施策単体で何かを成そうとするのではなく、先程お伝えした通り、偉大な企業につながる“良い習慣をデザインする”ことを一番大事にしています。もっとも身近な施策には、毎週金曜日の週次報告があります。

半年に1回全社で集まる合宿がありつつも、その場を単発で終わらせずに週次報告で全員が集まって分かち合う機会を継続的に設けることで、施策を点に終わらせずに習慣として蓄積していきたいですね。

 

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編:点と点をつなげて線のコミュニケーションへとデザインされているんですね。デザインの仕方はさまざまあると思いますが、すべてを人事企画室WIZで主導するのは難しくありませんか。

小能さん:規模の変化とともに、難易度は年々あがってきています。塩田なり人事企画室WIZが一対全体に場を提供することも必要ですが、これからは意志のある人たちがそうした場を運営するための支援をすることも大事だと思っています。社内の各所に火種を起こしていくイメージです。

坪谷さん:実際、福岡や台湾の拠点からはそうした兆しが生まれています。拠点は本社から離れている分、創業者とは日常的に会えませんが、『Akatsuki Heart』を拠りどころにとてもピュアな形で浸透しています。あとは拠点には熱い人がいるんですよね。彼ら彼女らが本気で語っていると、人数がまだ少ないこともあり周囲は感化されるようです。

編:多くの企業では本社とそれ以外での温度差が生まれがちで、悩まれている人事や広報の方が多いと思います。アカツキでは拠点の方が熱い状態になっているんですね。

坪谷さん:先日、そうした熱いメンバーが伝道師として福岡に集まり、『Akatsuki Heart』について語る会を開催したのですが、熱量がすごくて話が止まりませんでした。一人ひとりが語りたいことが多すぎて、一人目が現状を共有し終わった時点で予定していた時間の半分以上を使っていました(笑)。

編:盛りあがりがすごそうですね。それだけ語りたいことが出てくるのは、とても嬉しい状態だと思います。伝道師の集まりを実施してみて、何か気づきがありましたか。

小能さん:熱量がある人の集まりには想像以上のエネルギーが生まれる、らしさへの理解がいつも以上に深まることを実感しました。そこで、何かに熱を持った人が“その人らしさ”を発揮して仕立てた場は、普段以上に大きな成果が生まれるのでは、という仮説を持ちました。

この仮説をもとに開催したのが『Heart&Fish』です。私が大の釣り好きなので、「美味しい魚を食べながらアカツキらしさについて考えてみませんか」と、私らしさを全面に打ち出した会です(笑)。

当日は20名ほどが参加してくれたのですが、「どんなときにアカツキらしさを感じるか」「こんなアカツキになったら嫌だ」といったテーマで、多くの言葉が飛び出しました。みんながワークをしている裏で、私はマゴチという魚をさばいて、マゴチの習性をもとに、魚にもらしさがあるとして、マゴチらしさとアカツキのらしさをこじつけて話したりもしました(笑)

一見、非合理で無駄に感じるかもしれませんが、私らしさを通じて今までにないつながりが生まれたんです。一人ひとりのらしさが通常とは違う形でぶつかり合い、アカツキらしさへの共感も一段と深まった場でした。

編:今回は「小能さん×魚」がつながりの接点でしたが、これは他のどなたかに変わったとしても、音楽や映画などその方の好きなことで同じようにつながりを生みだせるということですよね。

おふたりは組織活性化と向き合っているわけですが、人・組織に向き合うのは、ときにつらいこともあると思います。私も自社の組織活性を担っていますが、自分のやろうとしていることが必要とされているのか、理想を押し付けすぎていないか、葛藤することがあります。

坪谷さん:私たちも昨日、まさにそういう話になりました。人事企画室WIZでは定例会を毎週行っていて、日々のプロジェクトの進行確認をする傍ら、「なぜWIZをやるのか(WHY)」「WIZとしてどうありたいか(Being)」についても常に問い続けてブラッシュアップし続けています。

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その中で、「なぜWIZをやるのか(WHY)」を考えてきてくれたメンバーが「いまここに向き合うのはつらい」と涙を流したことがありました。「本当にこれがみんなに役の立つことなのか、わからなくなった」と。そういう悩みは日々あると思います。

そのときは小能が考えてきてくれた「WIZとしてどうありたいか(Being)」の素案を見て、「やっぱりWIZはここを大事にしていくんだ」と決意を新たに、みんなで涙ぐんだりしていました(笑)。

小能さん:こうした葛藤が起きる理由を考えてみると、人事企画室WIZの見ている時間軸が、事業の見ている時間軸と少し違うからだと思います。アカツキには中長期で「偉大な企業を実現する」意志があり、人・組織に徹底的に投資することを経営陣が決めてくれているからこそ、幸いにも私たちはこの仕事にコミットできます。

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もちろん人事企画室WIZにも早期戦力化などの短期ミッションがあり必死に取り組んでいます。ただ、より重要になるのが、目先にとらわれず中長期で花開くための投資・選択ができているか。そして、そのために自分自身をアップデートできているのか。

事業が短期的に成功していなければ次の投資ができないのはビジネスの仕組み上、当然のことです。一方で、どんなに利益があっても大義がなければその企業が存続する意味はありませんし、市場からも淘汰されると思います。

この利益と大義が高い次元で融合している状態をアカツキは目指していて、人事企画室WIZは『らしさの種まき』によって人の可能性やアカツキの未来につながる“らしさ”を育み続けることに向き合い続けなければいけないのです。

編:最後に、今後アカツキをどのように進化させていきたいか、人事企画室WIZのビジョンを教えてください。

小能さん:人数が増えてくるほど、らしさの種まきも難易度がどんどん高くなっていると思っています。拠点も複数ある中で、各チームの数十人に一人、アカツキの未来を考え、さらにそれを周囲に響かせてくれる熱を持った人が生まれ続けてほしいですね。

人事企画室WIZとしては、その人たちの響かせる力を増幅しやすくする習慣をデザインして、もっと磨いていきたいと思っています。

坪谷さん:人事企画室WIZ全体を一貫する人材マネジメントのポリシーを作りたいと思っています。『ARCHITECT』や『DEVELOPING』までまたがって、5つの領域について一貫性を持って語れる指針ができたら、もっと強い組織になると思います。

いまは5つの領域、それぞれが違う魔法なんです。すべてがつながって世の中を照らすような凄まじい魔法をつくる。そんなイメージです(笑)。

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筆者

中島浩太

株式会社ゼロイン CAPPY編集部
2008年、ゼロインに新卒入社。総務アウトソーシングや社内イベントの企画・設計を担当。新卒採用担当を経験したのち、社内広報とマーケティング組織の立ち上げに携わる。CAPPYでは編集、インタビュー、ライティング、撮影まで担当しながら、各社の魅力的な取り組みを発信中。
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