2024/10/21

SAPジャパンが掲げる「Japan 2026」!浸透から実現へ本気で向き合う3人の想いとは

SAPジャパンが掲げる「Japan 2026」!浸透から実現へ本気で向き合う3人の想いとは

SAPジャパン株式会社(以下、SAPジャパン)は、ドイツに本社を置く世界有数のソフトウェアメーカーSAPの日本法人です。約1,600名の社員が働いており、GreatPlaceToWork® が主催する「働きがいのある会社」ランキングでは、大規模部門において毎年のように上位に位置しています。

SAPジャパンでは2032年に向けた長期ビジョン「SAP Japan Vision 2032」を掲げており、この長期ビジョンの実現に向けた変革の取り組みを、中期変革プログラムとして3か年毎に定めています。現在は、2024年から2026年の中期変革プログラム「Japan 2026」にもとづいて事業運営を行っています。SAPジャパンはこの3か年の道のりをどのように描き、社員の行動へと落とし込んでいるのでしょうか。

「Japan 2026」立案のプロセスから、浸透の山場となるカスタマーサクセスキックオフ、そのキックオフ内の“自分ごと化”を促進するコンテンツ『Peer to Peerワーキングセッション』の企画・設計について、プロジェクトに関わる3名にインタビューしました。

趣向を凝らしたアイデアと、本気の取り組みの裏側に迫ります。

編集部(以下、編):まずは、みなさまの簡単な自己紹介とミッションをお教えください。

鎌田さん:社長室にて、社員エンゲージメント向上を目的にした施策の立案・実行を担っています。一朝一夕にはいかないテーマですが、「衛生要因」と言われる働きやすい制度や環境を整えると同時に、社員にとっての働きがいの源泉となる目指すべき姿、北極星を見せていく、この両面を大切にして取り組んでいます。

年始に開催する社内最大のイベント『カスタマーサクセスキックオフ』は、まさに北極星を指し示す施策の一つと捉えています。

鎌田祐生紀さん

五十嵐さん:トランスフォーメーションオフィスという部署に所属しています。この部署は、SAPジャパンが中長期にわたって取り組むべき社内外のミッションを担っており、現状のビジネスの延長線上にとらわれないことが特徴です。さまざまなテーマはありますが、私のメインミッションは中期変革プログラム「Japan 2026」の企画立案から推進までをリードすることです。

SAPジャパンには、2012年に策定した長期ビジョン「SAP Japan Vision 2032」があり、その実現に向けて3年毎に中期変革プログラムを策定しています。私は2024〜2026年の中期変革プログラムである「Japan 2026」の策定・浸透に、中心となって関わっています。

五十嵐剛さん

太田さん:私はカスタマーサクセスフィールドイネーブルメントという組織に所属しています。顧客の成功体験を生み出すために、日本のフィールドで働く社員のみなさんをイネーブルメントしていく部署です。

この組織は海外拠点まで含めたグローバル横断で編成されており、日本担当は私一人です。ですので、他部署のみなさんと手を取り合いながら業務にあたっています。

業務内容は、日本で働く社員のスキル向上を目的とした、さまざまな施策の実行なのですが、単なるスキル向上ではなく、学びやすい環境や文化づくりを重要視しています。また、「SAPで働くのって楽しい!」「顧客にもっとこんな提案をしてみたい!」という感情が湧くようなマインドセットづくりも重要な取り組みです。

文化醸成やビジョン浸透と表現される内容も含めたイネーブルメントの推進が求められています。

太田翠さん

中期変革プログラム「Japan 2026」策定に至る1年の歩み

編:それでは、みなさまが「Japan 2026」にどのように関わりながら取り組まれていったのか、お聞きしていきたいと思います。まずは五十嵐さん、中期変革プログラム「Japan 2026」の策定プロセスを教えてください。

五十嵐さん:発端は2022年12月です。「SAPジャパンとして何を成し遂げていくのか」を考える機会があり、機能・部署ごとの縦軸で取り組む課題ではなく、全社横断で考えていかなければならない課題を「Japan 2026」として具現化していく方針が定まりました。

ここから約1年間の策定プロセスが始まります。

五十嵐さん:2023年の2月には役員が丸2日をかけて、「SAPジャパンを、さらには日本という市場をどうしていきたいか?」について議論していきました。

次に6月の「Customer Success(顧客)」、「People Success(人)」、「Society Success(社会)」という3つのカテゴリーを定め、そのカテゴリーに関係の深い約30人を現場メンバーからも集めて議論する機会がありました。

さらに、「顧客」「人」「社会」の3つのステークホルダーの成功を実現することで、最終的にSAPジャパンのビジネスも大きく拡大させていきたいという想いから、「Growth(成長)」という4つ目のカテゴリーを追加しました。

これらの4つのカテゴリーについて、10月にグローバルやアジアパシフィックジャパンの戦略とアラインし、12月に正式にローンチしました。

編:各セクションに誰を巻き込んで、どのように浸透させ、理解を得ていくか、という設計も含めて五十嵐さんが中心に携わっていたのですね。

五十嵐さん:基本的には、私を含むPMOメンバーが中心となり設定していきました。大きな道はあらかじめ作っておきつつも、各セクションでの議論を経て、柔軟に軌道修正しながら進めていきました。すべてが予定通りではなく、グローバルの戦略部隊との調整も必要でしたし、フェーズごとに社内各所の動きと融合しながら取り組んでいます。

浸透の秘訣はトップからの発信と草の根活動

編:五十嵐さんはPMOという立場で、「Japan 2026」を掲げるだけでなく、社内に浸透させていく観点でどのようなことに注力されましたか。

五十嵐さん:浸透をフェーズに分けて、各フェーズで何をするべきかを常々考えて取り組んでいます。

五十嵐さん:この枠組みを踏まえて、「認知」の段階では全社会議における社長からの発信、施策推進者からの発信、社内のサイネージを活用した発信など、接触回数を増やすことを心がけました。

特に重要になるのは「認知」の次のフェーズである「共感」です。この会社が何かを始めようとしている動きを、社員一人ひとりが「自分にも関係のあること」として共感させていくことが必要なチャレンジでした。そのために段階的な取り組みを行っています。

2023年の9月にコアチームで実施した1stフェーズのVision Crafting Workshop(ビジョン クラフティング ワークショップ)では、まずはコアチーム自身が「Japan 2026」への理解を深め、「自分たちが推進していきたい!」という心情に持っていく狙いで取り組みを行いました。

その後、2ndフェーズのVision Crafting Workshopでは、若手社員や中途入社など特定のコミュニティを狙って巻き込むという目的で実施しました。

そして、さらなる共感の輪を広げていくために、3rdフェーズとして今回のカスタマーサクセスキックオフでは数百人単位のVision Crafting Workshopを実施することで、大多数の方を共感フェーズまで持っていけるのではないか、という仮説のもと行いました。

編:とても丁寧に、社内の浸透ステップを進められている印象を受けました。

五十嵐さん:最初からむやみに人数を増やしても、マネジメントコストやリーダーシップコストがかかってしまいます。本当にやりたいと手を挙げて、「こういうことしたい!」という思いを持った方々を尊重した広げ方をしていきました。

もちろん、最初のコアチームは基本的には役員やマネジャーの推薦をもとに大枠の参画者を決めています。しかし、浸透を進めていくに際しては、各フェーズでコアメンバーに対して「この方向性に賛同してくれそうな人はいますか?」という問いかけもしていきました。

編:直接声をかけて、呼びかけあって、草の根的に共感の輪を増やされる動きも大事にされたのですね。

鎌田さん:私は、初期の社長発信がきっかけで、「People Success(人)」のカテゴリーに手を挙げて参加しました。カテゴリーメンバーを増やす過程では、施策に合わせて「この人をメンバーに入れたいね」と一本釣りで声がけすることもありましたが、そうすると知り合いや社歴が近い人で固まってしまい、似通った思考の人ばかりになる恐れがあります。

全社に向けた社長の発信があると、社内から多様なタレントが集まってくるので、新しい意見や観点に出会うことができました。これはとても新鮮な経験でしたね。

浸透フェーズは各チームの取り組みに入っており、たとえば「People Success(人)」では策定された方針にもとづいて、達成に向けた計画立案を推進している段階です。一方で、社長から「こうした取り組みをしているので、興味のある方はぜひ参加して下さい」といった声かけもありました。つまり、草の根的なアンオフィシャルな声かけと、オフィシャルな声かけ、この両面が推進のポイントでした。

社員を飽きさせず新しい発見に誘うキックオフのコンテンツ企画

編:それではここから、年始に実施された社内最大のイベント『カスタマーサクセスキックオフ』の目的とゴールについてお伺いさせてください。

鎌田さん:カスタマーサクセスキックオフは、年始にグローバル全体で戦略を共有すると同時に、社員のモチベーションを上げる場で、SAPのすべての拠点で実施されているイベントです。

その年のフォーカステーマや社員のイネーブルメントなど、グローバル全体で戦略を発信しているため、グローバルからのリクエストによって内容やプログラムの時間配分など、ある程度構成が決まっています。

そこから各国がアレンジしていくので、SAPジャパンとして日本にフィットする内容を組み込みながら、グローバルとアジェンダを擦り合わせていく必要があります。

基本的には1DAYのイベントで、大きく3本立ての骨子で実施しています。

  1. 昨年の業績の振り返り・今年のターゲットや方向性の発信
  2. 今年の戦略の理解を深めるコンテンツ
  3. 社員のスキルを高めるイネーブルメントコンテンツ

これらを朝から夜18時くらいまで実施し、最後にパーティーを行うのが基本の仕立てです。

当日は8つのセクションに分けて、各セクションオーナーや子会社のCONCUR(株式会社コンカー)、ロジスティックスのメンバーも入り十数名でプロジェクトは構成されています。社長室長がグローバルとの調整を行い、私はロジスティックスまわりのリーダーとして予算管理やベンダーとの調整を担当しながら、各コンテンツに入り込んで方向性のディレクションも行います。

編:カスタマーサクセスキックオフというネーミングは、どのような背景から名づけられたのでしょうか。

鎌田さん:ビジネス転換の意味合いを強く持たせています。もともと当社は、売り切り型のソリューションを販売していましたが、現在はクラウドカンパニーにシフトしようとしています。そうすると中長期的な顧客とのつながりが必要で、必然的にカスタマーサクセスを強く志さなければなりません。そうした背景があり、キックオフミーティングの名前は『カスタマーサクセスキックオフ(以下CSKO)』と名づけられました。

編:今回のCSKOでは、「Japan 2026」の観点からPeer to Peerワークが重要なコンテンツだったと理解しています。こちらの概要についてお教えください。

鎌田さん:CSKOの狙いの一つに、社員が日本全国から集まる機会を活用した社員同士のネットワーキングがありました。ただ、限られた時間の中で、ネットワーキングだけを目的にしたコンテンツを単独で入れ込むことは困難です。そこで、イネーブルメントコンテンツと「Japan 2026」の浸透にネットワーキングの意味合いを重ね合わせた「Peer to Peerワーク」を作る方向性に至りました。

編:ここから太田さんに、どのように「Peer to Peerワーク」の中身を考えていったのか、お伺いします。

太田さん:「Peer to Peerワーク」のセッション自体は、グローバルから実施を求められたセッションです。そこで、SAPジャパンにとって相応しいコンテンツがどのような内容なのかを検討しながら、グローバルの意向と日本の想いをつないでいきました。

CSKO全体の最大の目的は、参加した社員に「この会社で働けて良かった!」「この会社でがんばっていこう!」と感じて帰ってもらうことです。そのためには、共通の目標であるビジョンをベースにして、社員に働きかけていくことが必要です。同時に、CSKOの場は五十嵐がリードして考えてきた「Japan 2026」と結びつけられるとも考えました。

編:まさに「Japan 2026」浸透の象徴的なコンテンツとなっていったわけですね。

太田さん:ネットワーキングやイネーブルメントを目的化して、単体で考えることは難しいと感じます。強制的にネットワーキングを促すのではなく、「ビジョン」と「目の前の仕事」を結びつけて考えられる機会を設けて、その中で部署を越えて意見を交換し、語り合う。こうした体験を経て、結果的にネットワーキングができている状態ができている、そうしたゴールを目指して設計していきました。

編:Peer to Peerワーキング内のコンテンツには、どのようなこだわりがありますか。

五十嵐さん:参加した社員がいかに共感できるか、自分ごと化するか、が重要なテーマでした。

そこで、まずは自分の内面と向き合う場を作るために、カラーバリューカード(価値観カード)を活用して、自分の価値観そのものについて向き合い、内面を掘り下げるゲームをしました。

その上で「Japan 2026」についてカテゴリーオーナーから各カテゴリーでどんなことを実現したいかのプレゼンを聞きます。このプレゼンの中では、社員一人ひとりが共感した箇所で手持ちのスマホを用いてリアクションするのですが、このリアクションは会場のスクリーンに反映されるので、会場全体で共感ポイントを共有できるようになっています。

そうして、自分と「Japan 2026」との重なりを言語化する個人ワークへと移っていきます。

ここで、全社的にビジネスAIの活用を推進していく流れであり、私たち自身のAI適応スキルも高めていくべきという議論を背景に、「生成AIと対話をしながら自分の世界観を画像として表現する」ワークを企画しました。このAIを取り入れたワークが、今回のコンテンツの最大の特徴です。

編:こうしたワーク、模造紙に付箋を貼る、グラフィックレコーデイングでイメージを沸かせながら進行するなど、ある程度想像がつくものですが、生成AIをワークに取り入れるという発想は驚きでした。どのように企画していったのでしょうか。

太田さん:段階的に企画を膨らませて作っていったのですが、「参加者は楽しめるのか?」をとことんイメージすることを大事にしました。どのような体験が社員にとって新しい体験になるのか、ゲーム性を持たせながらビジネスやビジョンを考えることにつなげられないか、より共感性を持たせる仕掛けはないか、こうした観点で議論を重ねていましたね。

鎌田さん:長年キックオフの企画に携わってきましたが、戦略や方針は全社員が積極的に聞こうとする一方で、ネットワーキングやワークショップなど仕事と直接的な関連が感じられにくいパートは、社員が「重要」もしくは「おもしろい」と感じられなければ聞く耳を持ってもらえません。

もっと言うと、「いかに帰らせないか」という工夫が必要です。とにかく「おもしろそうだ」と思ってもらって、社員を一人でも多く留まらせることができるか、を狙いに定めていました。半分以上が帰ってしまったこともありましたが、今年のCSKOでは7割以上の人が残って参加してくれました。

変革の中にあるからこそ伝えたい、高みを目指した先にあるビジョンの素晴らしさ

編:ここまで考え尽くされた素晴らしいコンテンツ、徹底的なこだわりですね。

太田さん:事前のプロモーションから、鎌田さんがメッセージし続けたことも大きかったと思います。

鎌田さん:事前広報で、ニュースレターを何度も配信しました。「今年盛り上がる生成AIを取り入れたコンテンツがある」「ChatGPTに触ったことがない?それはまずいのでは?」など、少し煽り要素も入れながら、魅力的に感じてもらえるようなコピーで参加者の興味を掻き立てられるように取り組みました。

編:まさに社内広報の鏡と言えるアクションですね。ワークショップを終えて、みなさんの手ごたえを教えてください。

五十嵐さん:「Japan 2026」浸透との接続の仕方やAIというテーマ選定を振り返ると、会社が今どのような状況にあり、何をしようとしているかを理解していることは非常に大事で、その文脈を読まずに施策を打っても人は集まりませんし、届くメッセージは限定的になります。いかに全体の流れを読みながら企画を施策に落とし込んでいくかの重要性を感じました。

事後アンケートでは、5点満点中4.8という高い満足度を得ることができました。参加者の声には、「新しい体験になった」「メッセージを伝えるための工夫が凝らされていた」といった嬉しい声もありました。何より「良かった」の観点がバラエティに富んでおり、さまざまなポイントで満足度を得られたことも、これまでとの違いでした。

太田さん:今回、価値観カードをワークに取り入れましたが、「初めて価値観に触れた」「価値観の相互理解は重要」というコメントが散見されました。これまでを振り返ってみると、一緒に働く仲間の価値観を社員同士で共有できていない側面があったように思います。

少し壮大かもしれませんが、SAPジャパンが今後ビジネスを展開していく上で、社員同士の人と人との関わり方を、より深く感情的な部分まで理解し合うきっかけを盛り込めたのではないかと感じています。

実際、価値観カードはCSKO終了後に20件以上の貸し出し依頼があり、各事業で積極的に活用されているようです。

編:最後に、「Japan 2026」の浸透に向けて、今後の展望をお教えください。

五十嵐さん:キックオフ一つでカルチャーが突然変わることはありませんので、今後も掲げているビジョンを日常的に、浸透から実現に至るまで力強くメッセージしていく必要があると感じています。

また、そうした活動そのものが社員の自尊心や自己肯定感につながると良いなと思います。「Japan 2026」の活動を通じて、「会社への貢献ができている」「私なりにこういう世界を作っている」という感覚になり得るのが、この活動の意義だと強く信じています。

自分の取り組みが、SAPで働く社員や関連する方々の幸せにつながると願って、今後も進めていきたいと思います。

太田さん:一人ひとりが充実感を持てる1日をいかに増やせるか、そのために自分のリソースをどのように使えるかを、イネーブルメントを支援する身として推進していきたいと考えています。それがきっと、「顧客のために頑張っていこう!」と思える時間を少しでも長くすることになるのだと思います。

戦略的に考えることはもちろん重要ですが、草の根、継続を大切にしながら、仕事で関わる目の前の人に声をかけ続けることを大事にしていきます。

鎌田さん:SAPジャパンは特にこの1年は、組織面でも戦略面でも、大きな変革の最中にあります。この変化は社員にとってストレスがかかることでもありますが、目指すべきところがいかに素晴らしいかを伝え、社員に夢を持ってもらうことが、私自身のやるべきことです。

グローバルからのハイレベルな要求をしっかりと解釈して、SAPジャパンの中に解像度高く伝え、その上で高みを目指すエネルギーを見出す。このステップを、腰を据えて着実に実現していきたいと思います。

この記事の著者

増田 祐己

元CAPPY編集長(三代目)
業界・企業規模を問わず、インターナルブランディングやインターナルコミュニケーションのプロジェクトを多数プロデュース。経営と現場、2つの視点を持つことを大事にしており、双方のつながりを生みだす共感の接点づくりが得意。
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