2019/01/11

100年企業ヤンマーが実践!次の100年を実現する組織づくり

産業用ディーゼルエンジン、農機、建機、発電・空調設備、小型船舶等の製造・販売を中心に多彩な事業展開を進めるヤンマー株式会社は、2012年に創業100周年を迎え、新しいミッションステートメントを発表しました。そして2016年には、未来につながる持続可能な資源循環型社会の実現に向けて、『A SUSTAINABLE FUTURE -テクノロジーで、新しい豊かさへ。-』をブランドステートメントとして掲げました。

世界各地に生産・販売拠点を設け、グローバル展開を推し進める同社において、ミッションステートメントやブランドステートメントはどのような役割を果たすのでしょうか。またいかにして新しいステートメントを社内に浸透させているのでしょうか。

このミッションステートメント浸透プロジェクトのリーダーを務めるヤンマーホールディングス株式会社 人事部 部長の神原清孝さん、ヤンマー株式会社 人事労政部 採用グループ 課長の上田弘二さんに、『A SUSTAINABLE FUTURE』の実現に向けた具体策や組織づくりについてお聞きしました。

編集部(以下、編):ヤンマーは2012年の創業100周年をきっかけに、自社の存在意義や使命を再定義する「ブランドプロジェクト」を実施されたそうですね。目指すブランドや、それを実現するためにどのような組織を目指しているのか、教えていただけますか。

ヤンマーでは、ブランドステートメントとミッションステートメントをこのように掲げています。

ブランドステートメント

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ヤンマーはテクノロジーで世界に新しい豊かさを提供しようとしています。既存のアグリ事業(農業分野)からコンポーネント事業はもちろん、新規事業から商品開発まで、すべての土台にあるのはテクノロジーです。そしてこのテクノロジーを支えているのは社員なので、社員がワクワクと主体的に働けることが必要です。

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神原清孝さん

そこでヤンマーでは、『自律型組織』を目指しています。市場がますます変化・拡大していく中で、日本国内ですべてをコントロールしようとしても限界があります。グローバル展開の前線は全世界に散らばっていますからね。そうした環境では、自分で考えて行動をすることが求められます。

ただ自分で考えて行動をするにも、求心力を持った会社としての核が必要です。そこで創ったものがミッションステートメントでありブランドステートメントでした。これに準じてさえいれば、あとは社員一人ひとりに任せるよ、というメッセージでもあります。

それぞれが共通のゴールに向かって動き、うまく連携し合えれば素晴らしいゴールが生まれます。ゴールを目指すことは決まっていますが、動き方や手法はそれぞれでも構いません。ディフェンダーであっても、機会によっては攻めあがってもいい。そういうイメージで『サッカー型経営』とも呼んでいます。

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オフィスの中心に螺旋階段を設置し、コミュニケーションの活性化を促進する大阪の本社オフィス

編:どれだけ共通のゴールを理解できているか、共感できているかが、一人ひとりの自律した行動に直結するのではないでしょうか。理解を深めるために、ステートメントを策定した後、どのようにメッセージしてきたのですか。

ステートメントの発表後、年間100回程度の研修を継続して実施しています。当初は日本人だけが講師となり研修を実施していましたが、海外売上が50%を超えるまで成長していますので、最近では海外現法の社員が講師となり全世界で同様の研修を開催しています。国籍や文化、宗教が異なる中でいかに受け入れてもらえるのか。ステートメント実現のために向き合わなければいけないと感じています。

こうした研修を実施して感じたのは、海外の方はミッションを非常に重要にしていることでした。海外では転職が多く、会社選びの基準にミッションを挙げる方が多いようです。浸透のためにミッションブックを11ヵ国語に翻訳・配布したのですが、一生懸命に勉強して、びっしりと書き込んでいる社員もいます。

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コーポレートカラーの赤色が印象的なミッションブック

研修のやり方も、日本では座学中心ですが、海外ではディスカッション形式で意見交換・議論する機会を増やすなど、仕立てを変えています。最近ではステートメントの伝道師として成長したシンガポールの社員が、タイやインドネシアに訪問して教える、という自立した動きが生まれてきています。

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座学が中心の国内の研修

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活発な議論が繰り広げられる海外の研修

編:ミッションを発表し、浸透策を展開していく中で、社内にどのような変化がありましたか?

社内で生まれる業務改善の行動量が飛躍的に増えています。

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上田弘二さん

お客様への価値提供を目指しているミッションを実現していくためには、日々の業務を改善してより良いものにすることが必要です。そこで「ミッションの実現は改善から」と言い続け、その改善活動を表彰する場を2013年に新設しています。それがグループYWK(Yanmar Way by Kaizen)大会です。

3人以上のチームをつくって自薦でエントリーしてもらうのですが、今年は全世界から2,800件を超える応募がありました。ちなみに初年度は600件でしたので、5年で5倍近くまで増加しています。

エントリーされた取り組みは複数カテゴリに分けて審査を行い、特に素晴らしい改善を実現したチームは全世界から日本に招待して表彰しています。残念ながら全員を日本に招待することはできませんが、1チームあたり平均5人くらいが参加しているので、全社員2万4千人のうち半分が参加している取り組みです。

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YWKにて自分たちの改善活動をプレゼンする海外の受賞チーム

編:ヤンマーにおける一大イベントですね。かなりの規模ですが、グループYWK大会はどのように企画・運営されているのですか。

実はこの大会運営自体が、サッカー型経営を体現する機会にもなっています。プロジェクトを立ち上げてメンバーを募り、若手を中心とした30人くらいで自律的に運営しています。10月頃からプロジェクトが始まり、翌年3月頃まで活動しています。

部門を越えたメンバーが集まるので普段会えない人と会えますし、つながりが生まれます。また、他のプロジェクトではうまく進まずに終わらないプロジェクトもあるのですが、グループYWK大会は最後の表彰式のイベントを無事に終えればプロジェクトが終了するので、区切りが明確で達成感を味わいやすいです。

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グループYWK大会プロジェクトメンバーの皆さん

基本的にプロジェクトの進め方はメンバーに任せています。過去の開催実績に基づいて具体的に指示を出すこともできるのですが、自分たちで考えて実現してほしいので、自由度高く任せています。ある意味、ほったらかしとも言えますね(笑)。

編:参加されるメンバーはそうしたイベント経験もなく、日常業務もあると思うのでかなり大変な活動になりますよね。

第1回は特に大変でした。若いメンバーが激しく議論するのは日常茶飯事で、イベント当日もインカムで怒鳴り合いをしていました。でも本気でやった分、終わったら抱き合って、感動して泣いてしまうメンバーもいます。やはりイベントは当日に向けて忙しくなっていくので、業務もある中での活動は大変ですが、達成感も大きいようです。

ちなみにメンバーは毎年半分が入れ替わるようにしています。いろんな社員に経験してほしいので、2回目が半分、1回目が半分という割合です。

編:YWK大会の当日は、どのような雰囲気なのですか。

純粋に社員を褒めて称賛するための大会なので、和やかな雰囲気で進みます。世界中から集まった社員は、チームの取り組みを楽しくプレゼンテーションして、社長自らが表彰を行います。表彰された社員は感動し会社に対するロイヤリティが上がるとともに、帰国後に同僚に伝えることによって、その思いが伝播していきます。

表彰されると感極まって泣いてしまう参加者がいるのですが、それを見て運営プロジェクトのメンバーは「この人たちのためにもっといい大会にしたい!」と再確認するようです。

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編:たしかに、実際に受賞者と接することで、プロジェクトの取り組み意義を再認識できますよね。ミッションに沿った行動が着実に増えているとのことですが、ステートメントを発表した際、社員のみなさんは最初からすんなりと受け入れてくれたのでしょうか。

発表当初は冷めた受け止め方をした社員はいたようです。理由のひとつに、100周年を迎える前に発表していた「100周年を迎えるまでのミッション」がありました。社員によっては「また新しいのができた」「また本社が何かやっている」という印象だったのかもしれません。

こうしたミッション浸透の考え方について、他社の方に勉強させていただいたことがあります。そのときに印象的だったのが「いかに継続できるかが浸透のポイントだ」ということです。続けていくと、どこかのタイミングで社内から「飽きた」という声が出るそうです。それでも継続し続けられるか?で、浸透の成否が変わってくると。そこで経営層には「最低10年間は口出しせずに活動させてほしい」と念押ししてから始めました。

編:2012年以降に入社した社員は最初から現在のミッションを認識して入社してきますが、それ以前の社員にはまだギャップもあると思います。そうした社員にフォーカスした浸透施策は、何か実施されているのでしょうか。

課長層を対象にしたミッション研修会を行いました。課長層は上にも下にも影響力があるポジションですから、その層からミッションへの共感を生み出し浸透を図っていきました。

課長には研修後、同様のことを部下にもやってくださいね、と必ず要望しています。なかなか取り組んでくれない課長もいましたが、根気強く「やってください」と言い続けてきました。4~5年続けていると、部長が「課長はなぜあんなことをやっているのか」と言い始めます。そこで、今度は部長と課長を一緒にして研修しています。

かつては「ミッションを浸透させなくてはいけない」という雰囲気でした。それが活動7年目を迎え、ミッションが共通言語化、日常の会話にもミッションに沿った話が出るようになってきました。

編:最後に、今後目指す組織の姿についてお教えください。

「ヤンマーは人で持っている。良い製品やサービス、素晴らしいアイデア、すべてがは人が作り出している。」と社長の山岡はいつも話しています。そのため常に社員のことを考えた組織づくりを意識しています。

山岡は毎月、入社者と退社者の全員に目を通しているんですよ。特に退社者については、一人ひとりの退社理由を説明する必要があります。せっかくヤンマーに入社してくれたのに、なぜ辞めてしまうのかと。特に女性や外国籍の社員に対して、ダイバーシティと言っているけど足りていないのではないかと指摘を受けることもあります。

まだ取り組むべき課題はありますが、そうしたダイバーシティの課題に対しては、幸いなことに社内から改善活動が巻き起こる場合もあります。最近ではウズベキスタン出身のイスラム教の社員が、社食やオフィス周辺で食べられるものがないと困っていたことがありました。

ここでもプロジェクトが立ち上がり、自律的な活動によって社食にハラル料理が準備されました。配膳口や返却口、食器を分けるなどの対応をしています。敬虔なイスラム教徒なので、お祈りのための礼拝堂も新設しました。

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ハラル料理

ほかにも、ヤンマーがかつてヤンマーディーゼルサッカー部(現セレッソ大阪)を抱えていた縁もあり、セレッソ大阪堺レディースの所属する選手をサポートする制度も始めています。

会社にインターンとして受け入れて日常業務を経験してもらうことで、今後のキャリアを考える機会を提供しています。U20で代表となり世界チャンピオンになったような選手もいますので、就職機会の選択肢を増やすサポートができればいいと考えています。

今後、ヤンマーはよりグローバル化していきます。海外比率は今以上に増えていきますので、そのときに日本中心の考え方では回りません。今は日本で採用して海外に行ってもらうことが多いですが、海外で採用して海外勤務、海外で採用して日本勤務も増えるはずです。

そうすると採用する場所と働く場所は重要ではなくなりますし、ジェンダーや国籍・宗教の違いは当然のこととして受け入れられなくてはいけません。本当の“多様性”を形づくっていく活動は、これからも続けていきます。あらゆる社員がヤンマーチームの一員として日々、ワクワク楽しく働ける職場を作っていきたいと考えています。

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筆者

中島浩太

株式会社ゼロイン CAPPY編集部
2008年、ゼロインに新卒入社。総務アウトソーシングや社内イベントの企画・設計を担当。新卒採用担当を経験したのち、社内広報とマーケティング組織の立ち上げに携わる。CAPPYでは編集、インタビュー、ライティング、撮影まで担当しながら、各社の魅力的な取り組みを発信中。
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