2020/10/26
従業員同士がお互いに感謝と報酬を贈り合える仕組み「ピアボーナス」。近年はクラウドを活用した様々なサービスが提供されるようになり、日本でも多くの企業で導入が進んでいます。
今回は、このピアボーナスの仕組みを導入し、独自に運用の工夫を重ね、企業文化を育む場として定着しつつある事例をご紹介します。
インターネットの広告代理業としてデジタルマーケティング支援を行う株式会社D2C R、人事部の佐藤さんと常世田さんにお話を伺いました。
編集部:取り組みはどのような経緯で始まったのでしょうか?
佐藤さん:D2C Rは、2013年にD2Cから広告代理事業を切り出して分社化する形でスタートしました。立ち上げ時は、営業部隊数名から始まって、7年たった現在は社員200名弱にまで増えています。なんらかコミュニケーション施策を導入しなければ、という雰囲気になりはじめたのは社員が50〜60人くらいのタイミングで、2016年前後だったかと思います。
それまではお互いに声をかけあえば通じるような一体感があったのですが、その頃から、他の部署の仕事が見えにくくなってきた、という声を徐々に聞くようになりました。
とはいえこの頃は、数は増えてきたものの横のつながりもしっかりあり、まだ強い課題意識はありませんでした。それが100名前後あたりから、いわゆる組織の100人の壁にぶちあたり、実際に業務上であまり関わらないメンバーが何をしているかがわからないという課題が目に見えてわかるようになってきて。また、新人が増え、新任マネジャーも増えて、社長のメッセージも、それまでのようには伝わりにくくなってきていました。このあたりから、会社としてもしっかり整備をしていこうとなり2016年の下期から様々なコミュニケーション施策の検討をはじめました。その一つとして導入したのが「Unipos」です。
※編集部注:「Unipos」は、Fringe81株式会社のWebサービス。従業員同士が、日頃の仕事の成果や行動に感謝・賞賛するメッセージとともに、ポイントを送りあえる。ポイントは成果給(ピアボーナス)として従業員に還元できる。
編:様々なコミュニケーション施策を検討した中で、この制度を導入した理由は?
常世田さん:もちろん他にも色々な施策を検討し実施しています。方針を噛み砕いて伝え、今後の会社をどうしていくかを話す場として、社長との朝活や1on1をやったり。
Uniposについては、もともと月に1回、全体会議があってそこでMVP表彰をしているのですが、MVP以外にも功績を出していたり、功績を支えた人もたくさんいる中で、もっといろんな人にスポットライトをあてたいという思いがありました。
佐藤さん:弊社は一つのプロジェクトごとに営業、運用、クリエイティブ等がチームを組んで仕事をすることが多いんですね。そうすると結果に対して多くのメンバーが関わるので、案件に関わっていないメンバーからは見えないけど、実は縁の下の力持ちがいたということももちろんあります。そういう人たちにもスポットライトをあてて表彰したかったんです。
編:制度を盛り上げるために、どんな工夫をされましたか?
佐藤さん:なんでも前向きにやってみようという文化はあるので、みんな面白がって最初から参加してくれました。アクティブ率も多少の波はあるものの導入企業の平均値は超えてスタートしました。今は週にもよりますが、1週間で10件~15件程度の投稿はありますね。
盛り上げの工夫としては、独自に名前をつけるという企業文化もありまして、スタートしてしばらくしてネーミングの公募をしました。
常世田さん:そのときの応募を見返してみるとめっちゃ色々出ていますね。「GIFT」とか、「ほんの気持ち」とか。だんだん大喜利みたいになっていますが(笑)
最終的に決まったのが「AZS!(アザス)」です。より身近にするために、社内のデザイナーにコンセプトを伝えて、キャラクターもつくってもらいました。
佐藤さん:もう普通の会話の中でも「AZS!」を使うようになっていますね。
あと、Uniposの担当の方にハッシュタグを作ると盛り上がると聞いたので、どんな#にするかを検討して。ちょうどその頃、クレドの浸透も進めていたので、クレドの4つの言葉を#で設定して、内容に当てはまると思うハッシュタグをつけて投稿してと促しました。こうした行動が紹介されることで、クレドが風土として定着してほしいなと。あとはクレド以外にもハッシュタグを社員が自分たちで独自につくり盛り上がっていた背景もあり、ハッシュタグをつけての投稿は自然と定着していきました。
常世田さん:みんな結構、長文でコメントしてくれるので、成果だけでなく、そのプロセスまでが見えるんですね。「こんなコンペがあって、この人が関わっていたんだ」っていうふうに、見えにくくなっていた仕事も認識できるようになりました。
佐藤さん:各クレドの#がついた投稿の中から拍手の多いものをクレド賞として表彰しています。「チャレンジ精神最高で賞」「責任感と情熱がすごいで賞」という感じで。実際の投稿文面をキャプチャし、社長の岡がいいなと思ったところに赤線を入れて、その内容を全体会議で共有しています。
佐藤さん:もう一つ、クレドのハッシュタグに関係なく、多くの拍手が集まった投稿に対して送った人、送られた人、それぞれ上位10組も拍手賞という形で表彰しています。受賞した方々には、互いに懇親を深めてもらえるようにランチ券を贈呈しています。いまはコロナ禍ということもあり、デリバリーを利用できるようにしました。
編:わりと順調に定着していったようですね。課題はなかったのですか?
佐藤さん:今年、D2Cの一部事業とD2C Rが統合して、50名位の仲間が増えました。ちょうどコロナ禍のタイミングで、急速にオンラインに移行したこともあり、お互いの顔と名前もあまりわからなくて。「AZS!」についても、みんなに使ってもらうように振り切ることができず、アクティブ率が下がってしまいました。
同じグループ会社とはいえ、それぞれカラーが違っていて。そこでお互いに理解を深めることを目指し、統合後の経営会議にはマネジャーも参加し、理解促進のためのプレゼンテーションを2〜3カ月かけてやっていきました。
また、毎月エンゲージメントスコアを計測しているのですが、「人間関係」や「支援」「承認」は組織づくりのベースとして重視している項目です。ここをあげていくための取り組みの一つとして、「AZS!」でもマネジャーから積極的に投稿してもらうことで、称賛の見える化を図っています。
とはいえ、マネジャーに対して、「これをやれ」ではなく、「こういうことを大事にしたいから考えてほしい」という形で、マネジャー一人ひとりに当事者意識をもって考えてもらえるよう、できるだけ視座の高い情報を提供するなどしてサポートをしています。
常世田さん:さらに現場でも、文化統合のプロジェクトチームを組み、現場の課題感を拾い上げ、経営と連携して対応しています。
編:企業文化をすごく大事にしているのですね。コロナ禍で何か変化はありましたか?
佐藤さん:やはりリモートワークになって、コミュニケーションが難しくなっていることはあります。オンラインがベースになることで会話は業務完結になりがちです。チーム内はなんとかなっても、部署を超えたチーム間の連携をどうするか。オフィスで顔を合わせての何気ない会話から、新しいアイデアやイノベーションって生まれてきたりするので。会社に来る意味みたいのもの、業務じゃないところの魅力や文化づくりをどうつくっていくかは、目下の課題ですね。
常世田さん:リモートワークでのコミュニケーションでいうと、各チームがそれぞれ独自に活性化施策を実施しています。たとえば、ランチタイム以外にも30分くらいの雑談タイムを意図的に設定してチームの信頼関係向上を図る「もぐもぐタイム」とか「お茶会」とか。それぞれが名前をつけてやっています。やっぱりネーミングも文化ですね。
佐藤さん:そういった現場発生の取り組みはたくさんあります。人事としては、それらを経営会議で報告することで、社内に伝播させたり、会社として支援できるようにしたりしています。一方で、形骸化しているものをずっと残しておくという考えもないので、1年ごとに精査して、現場にも確認した上でやめるものはやめるということも大事にしています。
今後はさらに、リモート下で自律自走しながらも、誰かのために、お互いのために動ける、そんな+αの文化づくりをしていきたいと思います。
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筆者
三宅 柚理香