2018/12/18
『世界震撼』をビジョンに掲げ、スマートフォンゲーム事業などで躍進を続ける株式会社アプリボット。マンガRPG「ジョーカー~ギャングロード~」や小学生向けオンラインプログラミング学習サービス「QUREO(キュレオ)」など、多くのヒット作を世に送り出しています。
今年、従業員数が300名を超え、組織づくりにおける新たな課題が見え始めたことから、従業員の行動指針となる「Applibot Membership Compass」(以下、AMC)を作成。作成の背景には何があり、どのように社内浸透を行ってきたのでしょうか。代表取締役社長 浮田光樹さん、統括本部 広報 牧野結美さんにお伺いします。
編集部(以下、編):浮田さんが目指す組織の形や、社内コミュニケーションの“ありたい姿”とはどのようなものですか。
浮田さん(以下、浮):私たちは「世界震撼」をビジョンとしていますが、これは「売上○○兆円の世界企業」とか「ダウンロード数○○」といった定量的なものではありません。「こうなったら嬉しい」「こうなりたい」といった状態のことです。
例えば、海外でふと隣を見たら、見知らぬ人が自分たちの作ったサービスを使っているとか。自分たちの作ったモノが国境を越えて使われている、認められている、それってすごく感動すると思うんです。その感動を味わうためにも、常に最高のモノづくり集団でありたいと思っています。
浮田光樹さん
組織の状態としてイメージしているのは、文化祭の企画をしているクラスの雰囲気や大学院の研究室です。
そこでは取り組むべき課題やミッションは自分たちで決めますよね。でも、それぞれ得意不得意があったり、スキルが違ったり、すごく前のめりな人がいたり、いろいろなメンバーがいると思います。時には摩擦や衝突があり、一筋縄ではいかないこともあります。それでも最後は一致団結して「やり切った」という達成感が生まれる。
青春というと言葉が綺麗すぎるかもしれませんが、そうした雰囲気の中でモノづくりをしたいと思っています。私自身、大学院の研究室で作業を分担してひとつのロボットを作っていたことや、部活動などの経験が原体験となって、こう考えるようになったと思います。
編:2018年4月に『AMC』を発表されたそうですが、どのような経緯で作られたのでしょう。
浮:当社では「事業成果」と「組織貢献」の2つの評価軸を設けています。「事業成果」は、売上アップに寄与した、開発スピードが上がったなど、誰の目にもわかりやすいものです。ただ、「組織貢献」はどうもわかりにくい。メンバーのやる気を引き出した、ノウハウを共有してチーム全体のレベルを上げたなど、組織のためになることはすべて該当するのですが、「もう少しみんながイメージできるようにした方がいい」という意見が役員の間から出ていました。
社員数が300人を超えて中途入社者も増え、50人、100人の規模とは明らかに異なる組織課題が出ていました。小さな衝突もあり、何らかの対策が必要だと思い作成したものが『AMC』です。これは社訓や社是のように厳格なものではなく、メンバーが日々、自分の行動を内省するためのものとして考えました。
編:『AMC』はどのように決めたのでしょうか。
浮:まずは、私一人で考えました。このために考えたというよりは、これまで社内で言ってきたことを整理した形です。「他人への否定で自分を正当化しない」や「間違ったら、素直に謝る。そして、前進しよう。」といった、組織で働く上で誰もが陥りがちなことをまとめています。
編:策定にあたり留意したことはありますか?
浮:最後を「成果はすべてを潤す。」にすることは決めていました。7つの中でこれだけが異質な言葉ですが、この言葉がないと単に良いチームを作るための標語になってしまいます。良い組織を作ることが目標ではなく、素晴らしいモノづくりをして大きな成果につなげることが最終目標です。それを忘れないためにも7つ目の「成果はすべてを潤す。」を入れました。
ただ、『AMC』は“こうあるべき”とか“守るべきもの”ではなく、評価に影響することはありません。あくまでも指針のひとつで、自分の行動を日々内省する“立ち返りツール”として定着させたいと考えています。
編:社員の方々にはどのように公表したのですか。
浮:『EVOKE』という全社総会の場で発表しました。何も予告はしませんでしたが、特に大きな混乱はなかったと思います。
牧野さん(以下、牧): 先ほど、浮田が「このために考えたというよりは、これまで社内で言ってきたことを整理した」と言っていたように、ほとんどの言葉は、私を含めメンバーみんなが日常的に浮田からよく聞いていることだったので、込められた意図をすぐにイメージできたのではないでしょうか。
牧野結美さん
編:どのように社内浸透施策を、展開したのですか。
牧:『AMC』は、あくまで“立ち返りルーツ”ですので、ふとしたときに思い出してもらえる状態を目指しています。
そこで1項目1枚、合計7枚のポスターを制作しました。『AMC』を体現できている社員をモデルとして選出し、印象に残るようなキャッチコピーも添えています。7枚セットで各フロアに掲示しているのですが、迫力があり特に意識しなくても自然に目に入るようになっています。
執務室内に掲示された大迫力のポスター
編:ポスター以外には、どのようなことを実施していますか。
牧:1000~1500字程度の『AMC』にまつわるコラムを毎月発表しています。コラム執筆者は毎回、浮田と相談の上で指名していて、実体験に基づくエピソードなどを中心に、その人の『AMC』の捉え方や具体的なアクションを書いてもらっています。これはチャットワークやSNSでもアップし、社内の壁にも掲示しています。
専属のデザイナーがデザインするコラム
浮:当社は掲示物がすごく多いのですが、皆一つひとつしっかり読んでくれています。その分、アウトプットのクオリティにはこだわっており、社内広報専任のデザイナーもいますし、最後は私も目を通すようにしています。
執務室内の掲示板には、アプリボットで働く上で大切な価値観が至るところで表現されている
編:コラムを月1回の発信頻度にしたのは、何か理由があるのでしょうか。
牧:まとめて冊子を作る案もありましたが、重厚感が出過ぎてしまう懸念がありました。「さあ読むぞ」と構えなくてもいいように、ショートストーリーでこまめに発信するようにしました。それでも毎回の内容はとても濃いので、チャットワークには頻繁にコメントが寄せられます。
浮:書き手によって読み手の受け取り方が変わるので、執筆者の人選も私が確認しています。基本的にベテラン社員やマネジメント層が中心で、周囲が認める経験と実績がある社員を選んでいます。
今活躍している人にもいろいろな失敗や苦労があった事実を知ることは、若手のモチベーションにつながります。また、自分が苦しい時には「あの人もそうだったんだな」と思って、壁を乗り越えるキッカケになってほしいですね。
牧:任せられた執筆者も、とても前向きに取り組んでくれています。自ら発信するという文化が社内に根付いており、社歴の長い社員ほど組織づくりへの関心が高いんです。なので、こうした取り組みの必要性を理解してくれています。
浮:こうした取り組みは、「綺麗ごと」だと一歩引いた目で見てしまう人もいますよね。そうした人が多数派になってしまうと組織運営はうまくいきません。ですから、納得感が得られるように「なぜこうするのか?」という背景をしっかり伝えるようにしています。
『AMC』もポスター掲示やコラムに加え、『AMC』について社員一人ひとりに語ってもらう動画も制作しました。その動画は『EVOKE』で流しました。私のスピーチにしても、浸透施策のひとつだと思います。こうした言葉は発表して終わりではなく、静止画、文字、動画、日常、総会といったいろいろなチャネルと場を使って繰り返し働きかける。こうした継続が大事なのだと思います。
社員総会『EVOKE』でも、クリエイティブにこだわった演出で社員へのメッセージ浸透を高める
編:そうした活動を続けてこられて、社内に何か変化はありましたか。
浮:「〇〇は間に落ちたボールをちゃんと拾えているよね」といった感じに、『AMC』が仲間をほめるときに使われている印象はあります。個人の立ち返りツールなので、目に見える変化や具体的な効果は表れにくいと思いますが、『AMC』による気づきのおかげで、防げたトラブルがあると思っています。
編:今後の組織づくりはどのように考えていますか。
浮:弊社はカンパニー制を敷いていて、プロジェクトごとにひとつの会社のように管理・運営しています。カンパニーごとに特色があるので、それぞれがひとつの組織として、文化を生み出してほしいですね。各カンパニーでこうした経験を積む社員が増えていけば、会社全体が強くなっていくはずです。
編:最後に、浮田社長が考える強い組織とは、どのようなものですか?
浮:ベタな話ですが、苦しい時に耐えられる組織ですね。「何をやるか」より「誰とやるか」が大事で、「この仲間となら何でもできる。数少なくなっても自分はここに残りたい」と考える人が集まっている組織は強いと思います。グループ全体を見渡しても、苦しくなった時に一緒に頑張ってくれそうな社員がたくさんいます。そう感じるのも、これまで組織づくりに力を入れてきたおかげだなと思います。
一方で、“誰にとってもいい会社”はつくれないとも思っています。ダイバーシティや働き方改革という言葉もよく聞きますが、例えば弊社ではリモートワークは推奨していません。合理的な生産性の高さを求めるより、人の繋がりや絆こそが高い成果を出せる要素だと思うからです。スキルの有無や実績は関係なく、とにかくここに共感してくれる人と高みを目指していきたいですね。
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筆者
竹井淳子