関東地方も梅雨入りしてしばらく経ちました。窓の外を眺めながら、雨を表す言葉を調べてみると、日本には400を超える雨の呼び名があるようです。(LivedoorNEWSより)温帯湿潤気候地帯にあって、大昔から雨の悩みや雨の恵みとともに暮らしてきた私たち日本人は、『五月雨』『白雨』『夕立』といった雨に何がしかのタグ付けをすることで、日々の暮らしや農業に役立ててきました。
私たち企業にもたくさんの独特な言い回しや言葉が溢れています。例えば、営業のシーンを思い浮かべてみます。営業対象や扱う商品、企業が育んできた営業スタイルによって、様々な言葉があります。私が新人の頃育った企業の営業部門では、『お願い営業』『説教営業』『紹介営業』『飛び込み営業』『ビル倒し』という呼び名がありました。
同様に「ほめ方」や「ほめ言葉」にも様々な表現があるように思います。
弊社は各社様の表彰式をお手伝いさせていただいていますが、受賞者の紹介や表彰状の言葉は、企業によって実に多彩です。
「圧倒的な生産性が求められる中、営業フローを再構築しツールを整備した結果、商談化からの受注率は飛躍的に向上した」「人一倍お客様の立場にたってアクションし、昨対200%の提案機会を獲得」「何重にも検証を繰り返し、脅威のミスゼロを達成。競合他社からリプレイスした顧客からの信頼に応えた」「過去に実績のない新たな案件を他部門と協働し受注。さらに過去最高粗利を計上し、全社目標達成に大きく貢献」
などなど。『生産性を高めたこと』『新しいことに挑戦したこと』『顧客の信頼を獲得したこと』など、1つのエピソードに対し、その企業の価値観や組織文化によって切り取り方が変わり、その結果がほめ言葉にしみ出しています。
『組織行動』(鈴木竜太 服部泰宏著 有斐閣)によると、
組織文化とは、組織のメンバーに共有された価値観・信念・行動規範のパターンと定義されています。狭義には、経営理念やビジョンのような形で表現され、組織の中で共有されている、種々の価値観や信念、およびあらゆる状況下でどう振る舞うべきかという行動規範。広い意味では、そうした価値観・信念・行動規範の背後にある無意識の基本仮定、また価値観・信念・行動規範を体現した具体的な文物。
とされています。
私が若いころお手伝いした、ある企業のマネジャー表彰式でのことです。サプライズ演出で顧客や家族からのおめでとうメッセージを流した時に、受賞したご本人が思わず涙したのです。演出側としては「やったー!」なのですが、その涙をみた、ある本部長が「彼は冷静さを欠く人間なんだね」と一言つぶやいたのです。この会社では、マネジャーたるもの、公の場ではどんな時でも冷静な行動をしなければいけないという行動規範、不文律があったようです。私はこの一言に驚くと同時に、受賞された方に対して却って悪いことをしてしまった…と反省をし、そういった文化をまずは最初に確認するようにしています。
アメリカの心理学者で、組織開発やキャリア開発、組織文化の研究で有名なE.H.シャインさんの『企業文化』(改訂版 尾川丈一監訳 松本美央訳 白桃書房)に次のようなエピソードが紹介されています。
~(前略)~ ある大手の保険会社が新しい最高経営責任者(CEO)を雇い入れた。彼は、会社の主な問題点は、改革を怠っていることだと結論づけた。そこで、改革を進めるための多くのプログラムに着手したのだが、それらはことごとく失敗した。
~(中略)~ 組織の歴史から、この会社は非常にしっかりと組み立てられたシステムのおかげでこれまで成功してきたことが明らかになった。(この会社では)あらゆる問題に対する最善の解決法が考え出されており、その解決法を文書化し、それら全てを起こりうる全ての種類の問題ごとに整理した大きなマニュアルにまとめられていた。マニュアルに書かれた規則に従う従業員を報奨するシステムまであった。
~(中略)~ 組織全体が、物事の正しいやり方は規則に従うことであるという仮定の下に築かれていることにCEOは気づいていなかったのである。
~(中略)~ 逆説的に言えば、もしこのCEOが、このより深いレベルでの文化の要素を理解していたら、おそらく、彼は新しいマニュアルを作ることで成功を収めたはずである。「全ての部署は、毎月、新しい方法を3種類は開発し、それを実行するマニュアルを作らねばならない」と。
変革するにしても従業員をほめるにしても、組織文化を無視してはうまくいかないようです。その企業を支えてきた深いレベルでの価値観や「善」とされてきたことを見据えて、言葉をマネージしてみてください。環境が劇的に変化していく中では、組織文化自体も変えていく必要があるかもしれません。その時は、ほめる切り口を見直し、まず言葉から変えてみてはいかがでしょうか。
この記事の著者
並河 研
株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。