プレジデントボイス~メッセージの浸透度を上げる話し方~

新元号の発表と共に新年度がやってきます。入社式、期初の方針発表会、キックオフなどに向けてトップスピーチの準備に追われている方々も多いのではないかと思います。今回はスピーチの内容ではなく届け方、声の出し方や話し方について私なりにまとめてみました。

スピーチを見直したきっかけは、妻からのひと言

ここ数年、部下の結婚式の主賓挨拶や全社員の前でのスピーチ、セミナー、ワークショップで数時間のファシリテーターをする機会が増えています。そんな中たまたま結婚式で同席した妻から「あなた、早口になっていて聞きづらいわ。伝えたいことが届いていないかもね」と言われました。それが自分のスピーチを意識したきっかけです。

私は体育会出身で主将を務めていましたし、リクルートの広報室時代はビデオ社内報や全社朝会で司会もしていました。“話すこと”には抵抗もなく、特段下手だとも思っていませんでした。それが届いていないとは、とても衝撃的でした。

でもあるとき、自分のスピーチを改めて振り返ってみたところ、緊張のせいかいつの間にか甲高い声になっていて、いささか絶叫調な話し方をしていたことに気づきました。どうやったら落ち着いた聴き取りやすい声で、説得力のある話し方ができるのだろう。このままではいかんなと、痛烈に思いました。

ボイストレーニングを活用する

人を感動させるスピーチの本場と言えば、欧米です。特にアメリカの歴代大統領の名スピーチは世界中で再生され、教科書になっています。彼の地では、大統領選から何人ものスピーチライターを抱えて遊説先や政敵に合わせて原稿を作り込むだけではなく、就任演説に向けてはブロードウエイやハリウッドからボイストレーナーを招いて声の出し方まで特訓するようです。

5年前、ある会社の40周年式典で、新しく社長になった方が4000人を前にスピーチをするということになり、私たちは、スピーチ原稿づくりとボイストレーニング、カラーコーディネートを依頼されました。普通は最低1カ月かけて行うトレーニングを2週間程度に圧縮して実施したのですが、そのときのボイストレーナーのアドバイスは、「声を前の人にぶつけてはいけません。一番後に座っている人にポーンと届けるように、斜め上を向いて発声してみてください」でした。これは私自身の話し方を見直す恰好の機会ともなり、いまもスピーチの際に意識しています。

発声に関してさらに参考にしているのは、私が良く読ませて頂いているボイストレーナー永井千佳さんの『リーダーは低い声で話せ』(中経出版)です。「肋骨の少し下にある横隔膜のスイッチを入れて、喉で声を出すのではなく横隔膜を使って息の量を増やせば、太い低い声がでる」とあります。1日5分のトレーニングでも身につけられるとありますので、是非ご一読してみてください。メッセージの浸透度を上げる近道かもしれません。

リーダーは落語を聴いている

最近、落語がちょっとしたブームで、経営者やビジネスマンで寄席に足を運んでいる人が多いと聞きます。私も月に1度は妻のお供で観劇しています。ちなみに『プレジデント』編集部の調査で、年収1000万円以上のビジネスパーソン679人の半数以上が「落語が好き」と回答しています。石田章洋さん、横山信治さんがお書きになった『ビジネスエリートは、なぜ落語を聴くのか?』(日本能率協会マネジメントセンター)にもそのことが紹介されていますが、自らの声と語りだけで人を笑わせ、感動させ、人生の粋と野暮を伝える落語にはいろいろ学べることが多いようです。私は特に、「マクラ」と言われる話の入り方や「間」の取り方がもの凄く勉強になっている気がします。流石に自分で落語をやろうとは思いませんが、最近人前で話すときに、ふと、間を取れているなと感じると、ちょっと嬉しかったりしています。

1分間沈黙できますか

本の紹介ばかりになってしまっていますが、『リンカーンのように立ち、チャーチルのように語れ』(ジェームズ・ヒュームズ/寺尾まちこ訳 海と月社)では、欧米の政治家や米国大統領の名スピーチ、伝説のスピーチなどを辿りながら、聴いている人たちに自分の言葉を力強く伝えるためにすぐにでもできる21の秘訣(テクニック)が紹介されています。

ちなみにテクニック1は「沈黙」。メキシコ初の民主的な選挙で大統領に選ばれたベニート・ファレスさんは140センチにも満たない身長で、イケメンでもなかったので、26歳のメキシコ議会議員に立候補したときから誰も演説を聞いてくれず、苦労されていました。それでもめげずに工夫を重ねて、ついに大統領まで上り詰めたのですが、そのときの工夫の1つが“沈黙”でした。

すぐに話し出さずに、聴衆一人ひとりの顔をじっと見て、ざわめきが静まるまで1分近くしてから話し始めるようにしたのが絶大な効果をもたらしたようです。ナポレオンも、この「パワー・ポーズ」の名手だったようです。

位置について、聴衆を見つめて、目を合わせ、最初の一文を頭のなかで言ってみる。そして、おもむろに、低い太い声で、ゆっくりと話し始める。

一度お試しになってみては、いかがでしょうか?

この記事の著者

並河 研

株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。

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