今年は新天皇の即位の礼と元号の切り替わり、ラグビーワールドカップなど、日本にとって特別な行事が目白押しです。さらに来年には2度目の東京オリンピックが開催され、世界最大の“お祭り”の中で私たちは仕事をし、生活をすることになります。
そこで今回は“お祭り”の時間がどのようにデザインされているかを取り上げて、インターナルブランディングにどう活用できるか考えてみたいと思います。
いにしえより祭りは“祭りごと”ともいわれ、世を治めるための儀式、あるいは少年や少女が大人になるための通過儀礼として、大切にされてきました。これを企業に置き換えるなら、創業祭や周年行事、あるいは入社式が相当するのではないでしょうか。
年に1回の社員総会も1年間の成果を人や仕事の成長で実感し、次のステージや企業の進化に向けての一歩であるとすれば、これも通過儀礼と言えるかも知れません。
通過儀礼と時間のデザインについて考えてみます。これは文化人類学者の方々が古くから研究をされているテーマですが、今回はその中でもイギリスのエドマンド・リーチさんがとらえた通過儀礼論を以下に紹介したいと思います。
通過儀礼は、『分離』⇒『移行・境界』⇒『統合』の3段階のプロセスを踏みます。例えば、イベント(祭り)が始まると日常の時間が切り取られて(分離)、非日常の時間に置き換えられ(移行・境界)、クライマックスを迎えたところで再度日常の時間に組み込まれる(統合)、ということです。
この各フェーズには、文化を超えて共通する特徴的な活動形態があるといいます。
それぞれ
です。
これを私たちが知っているお祭りや冠婚葬祭などの身近な通過儀礼を思い出しながら考えてみると、より理解しやすくなります。
「形式性」は、儀礼のスタート時に非常におごそかな雰囲気の中、伝統に沿った儀式が展開されるシーンです。次が「役割転倒・逆転」ですが、例えば『なまはげ』を思い返してみます。鬼が祭りの期間だけ子どもたちの健やかな成長を願う存在になるというのはこの一例ではないでしょうか。最後の「乱痴気騒ぎ」は、祭りの終了後に開かれる酒宴といえば分かりやすいかも知れません。
世界最大のお祭りであるオリンピックでも、聖火の採火から開会式まではおごそかで形式的、大会開催期間中は「オリンピック停戦」の実施に象徴的な非日常の時間、自由な雰囲気の中で行われる閉会式と、この3つのフェーズで構成されていることがわかります。
では、通過儀礼にみられる時間のデザインを『社員総会』でみてみましょう。
社員総会のスタートは会場が暗転し、オープニング映像、あるいは司会がおごそかに開会を宣言することからで始まります。普段とは違う雰囲気を作り出すことで、参加者をいつのまにか非日常の時間へと誘います。
次に役割転倒・逆転を組み込み、さらに非日常の時間を演出します。例えば、表彰式でメンバーを壇上で褒め称えたるのもその一つです。また、トップメッセージや戦略共有を一方的に発信するのではなく、参加者にも意見や感想を発信してもらうことで、聞き手から当事者へと意識を転換させるというライブ演出も考えられます。
総会に続けて懇親会を行う企業も多いと思いますが、その場で役員や管理職がメンバーをもてなすなど無礼講的な要素を入れてみることや、会の最後に全員で掛け声を発声することで、イベントでの体験をもって再び日常の時間へと戻っていくことができるのです。
上記はほんの一例ですが、企業内イベントをより特別なものにしたいと考える際には、是非、リーチさんの儀礼論を参考にしてみてはいかがでしょうか。
参考『文化とコミュニケーション : 構造人類学入門 』/ エドマンド・リーチ著 ; 青木保,宮坂敬造訳. — 紀伊國屋書 店, 1981. –(文化人類学叢書)
この記事の著者
並河 研
株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。