会社で行われるアワード・表彰式は、社員の成果や成長、取り組みや挑戦を称えることでモチベーションやエンゲージメント向上を生み出します。また、戦略的に活用することで、ブランド戦略や組織戦略の推進力を高められる絶好のコミュニケーション機会となります。
かつては売上・営業目標の達成度合いに応じて個人やチームを表彰する「業績表彰」が一般的な表彰でした。しかし、働く価値観や選択肢の多様化、VUCAと呼ばれる不確実で変化の早い時代において、アワード・表彰式に求められる役割も変化しています。
たとえば、ビジョン・ミッションやパーパスといった企業のブランドを実現・体現する社員を表彰・共有するブランドアワードや、大きな成果につながっていなくとも挑戦や失敗といった社員のスタンスや行動を称賛する表彰など、多様な実施目的・種類で行われています。
企業成長や社会・市場環境の変化によって、組織状態や社員の仕事に対する価値観、経営として社員に求めたい意識や行動の内容は変化していくので、アワード・表彰式の目的やあり方は定期的に見直す必要があります。
それでは、どのようにアワード・表彰式を設計すると効果的な場や機会を創出できるのでしょうか。インナーブランディングのプロジェクトや企業のアワード・表彰式を多数プロデュースする株式会社ゼロインが、アワード・表彰式の考え方について解説します。
目次
アワード・表彰式とは?性質や特徴の違いアワード・表彰式の実施メリットや効果社員のエンゲージメント向上社員のモチベーションアップロールモデルの共有・浸透従業員エンゲージメントを高めるアワード・表彰式の設計方法アワード・表彰式の企画・設計 STEP0:目的の整理アワード・表彰式の企画・設計 STEP1:エントリーの設計アワード・表彰式の企画・設計 STEP2:審査・選出のプロセスの設計アワード・表彰式の企画・設計 STEP3:称賛と共有の設計アワード・表彰式のフェーズ・項目別パターン例アワード・表彰式の設計でよくある議論アワード・表彰式の事例1:VISION・VALUE策定×アワード実施VISION・VALUEの策定VISION・VALUEアワードの実施アワード設計でこだわったエントリーの考え方アワード・表彰式のエントリーは自薦か、他薦か表彰式で栄誉感を高める工夫アワード・表彰式の事例2:エモーショナルなプレゼンテーションアワードのプレゼンテーションを磨きこむ3つのプロセス受賞者の「あたりまえ」をひも解く3つの質問アワード・表彰式の事例3:アワードの事前・事後施策に力を入れる事前施策事後施策連携施策まとめ:アワード・表彰式のステータスをあげる3か条「アワード」と「表彰式」、この言葉を意識して使い分けている人は少なく、社内施策というカテゴリの中で同じような施策であると捉えられることも多いものです。一般的に認知された定義ではありませんが、その性質や特徴からゼロインでは次のように整理しています。
- アワード
一定の基準に従って、社員の行動や業績を選出・審査し、社内外に伝えていく一連のプロセス、ストーリー全体を指す。審査基準の提示を含む事前広報に始まり、エントリー、審査・選出、表彰式、事後広報などのプロセスが含まれる。- 表彰式
アワードプロセスの一環であり、称賛の場。受賞発表、表彰・授与、コメント・スピーチなどのプログラムで構成される社内イベント。
この定義におけるアワードは、中長期的なストーリーのもとで構成されていることが大きな特徴です。事前から事後までの長めの時間軸に沿って、多様な広報施策を通じて社員と継続的に接点を持ちます。
ポイントは、「日常の中にいかにアワードを組み込めるか?」です。アワードを日々の仕事と完全に切り離してしまうと、社員の共感を得ることが難しくなるため、社員を積極的にプロセスに巻き込むことを意識して取り組みます。
一方で表彰式は、アワードに内包される一施策で、もっとも栄誉に満ちた、アワードの「山場(クライマックス)」ともいえる位置づけです。「自分が表彰されたい」「あの場に立ちたい!」と思い、表彰式を目指して仕事に取り組む社員が増えるような、圧倒的に栄誉感あふれる“場”のブランディングが重要になります。
アワード・表彰式の実施は、企業・組織に次のようなメリットがあります。
社員の日頃の仕事を承認、評価する仕組みとして、人事評価制度があります。しかし、評価制度の運用だけでは、明確で目に見える成果や定量的な業績を超えた評価を行うことが難しい場合があります。
アワード・表彰式では、目的や「何を称賛するか」という設計によって、プロセスやスタンス、まだ成果にはつながっていないが素晴らしい行動などを、自由度高く表彰することが可能です。たとえば、「新しい領域への挑戦」をテーマにして称賛することで、当人が「一歩踏み出したことを認めてもらえた」と感じ、エンゲージメントが高まる可能性があります。
社員のエンゲージメント向上は、人材の定着や生産性向上に好影響をもたらします。また、お互いに承認・称賛し合う施策は、より良い企業文化の醸成にも一役買うでしょう。
関連ブログ:従業員エンゲージメントとは?向上施策や事例を解説
アワード・表彰式での評価や称賛が「特別である」こととして社内に浸透することにより、社員全体のモチベーション向上が期待されます。単純に人事評価で高い数字がつくだけではなく、組織内の優秀者として社内に共有される栄誉感をいかに醸成できるかがポイントです。
「表彰されて嬉しい」「会社や仲間に認められている」「また表彰されたい」といった表彰される社員の感情、「自分もあの場に立ちたい」「立てなくて悔しい」といった表彰されなかった社員の感情、それぞれが「あの場に立ちたい」という一つの目標を生み出し、日々の仕事に取り組む際の内発的な動機形成につながります。
重要なことは、「自分は関係ない」「自分には無理だ」「なぜあの人が」といった諦めや不公平感を生じさせないよう、社員全員を巻き込むことです。アワード・表彰式は、一定の時間をかけて取り組むものなので、選考基準や参加方法、選考プロセスを明確に示し、何度もアワード・表彰式と接点を持つ機会をつくることで、社員の参加意識を高め、積極的に巻き込んでいくようにしましょう。
アワード・表彰式で称賛される社員は、会社のロールモデルとして社員に受け取られます。表彰内容はそのまま経営メッセージとして、「会社がどのような社員を求めているのか」「どのような行動やスタンスが評価されるのか」、具体的なイメージとして社員に受け止められます。その企業における、行動・スタンスの道しるべといえるかもしれません。
特に、ビジョン・ミッションやブランドなど抽象的な概念の理解度を高めたいときには、社員の行動やシーンを通じて共有することで、具体的に伝えられるようになります。
ロールモデルの共有で注意したいのは、高い業績(結果)だけを表彰しても「社員は業績そのものを真似することはできない」ということです。高い業績につながった背景やプロセスをひも解いて、コミュニケーションの仕方や思考スタイル、仕事のフレームなど、「社員のどのような行動・スタンスを増やしたいか」を、明確な意思をもって共有することが必要です。
それでは、アワード・表彰式をどのように設計していけば、効果的な場や機会になるのでしょうか。アワード・表彰式の設計の流れについて、事例とともに具体的に解説していきます。
まず、アワード・表彰式の立ち上げ、再設計時においては、目的の整理を行います。
こうしたステップで順番に整理・設計することで、「会社として目指す姿」と「生み出したい社員の行動」に一貫性を持たせたアワード・表彰式の目的を整理できます。
エントリーの基準やエントリーシートの項目は、日常の仕事や上司との1on1ミーティングなど、活動の振り返りを行う場面で社員一人ひとりが意識する項目にリンクしてきます。STEP0で整理した「どのような行動を生み出したいか」を軸に、「何を評価するのか」を踏まえながらの設計がポイントです。
審査・選出フローは、参加する社員の納得度に大きく影響します。審査する側においても、一貫性を持った審査観点の根拠に繋がります。また、社員のマネジメントを担う管理職も、「会社として何を評価するか」が明確化されたこの基準をもとにコミュニケーションを行うようになるので、日々の育成にも影響を与えます。
称賛施策では、「表彰されて嬉しい」「また表彰されたい」や「自分もあの場に立ちたい」など、目指したいと思える栄誉感やステータスを醸成できるかがテーマです。共有施策では、共有を受けた社員が真似したい(真似できる)と思えるか、ロジカルさだけでなく仕事の価値や情熱などエモーショナルな部分も感じられるかを考えながら、設計していきます。
次の図にて、各項目のパターン例をまとめています。企業によって置かれた状況、環境が異なるため絶対的な正解はありません。課題や目的、組織文化に応じて、最適に組み合わせていくことが重要です。
アワード・表彰式の設計では、「称賛すること」と同時に「評価しないこと」を明確にすることも重要です。昨今の働き方改革や生産性を重視する流れの中で、「どれほど素晴らしい成果を出しても、定められた残業時間を超過したら評価されない」と定めている企業もあります。
ほかにも「業績は高いが、社内ルールを守らない」といった社員の表彰是非について議論になることもありました。こうした社員が表彰されると、「成果をあげれば何をしても良い」という企業文化が形成されてしまう恐れがあります。
表彰される内容や人は、「会社が認めて、推奨している」と社員が受け取ることを意識します。何を、どの順で「評価する」あるいは「評価しない」かは、そのまま経営メッセージとして社員は受け取ります。経営方針や企業の価値観・行動指針、取り組みテーマにのっとった設計を行いましょう。
企業統合から数年後のフェーズであり、文化融合とさらなる事業領域拡大に向け挑戦していくことが求められていた。そうした中で社員全員で新たな方向性を考えたいと、アンケートやワークショップを実施。
を策定。
その後、策定したVISION・VALUEの浸透を目的に、
を実施。VISION・VALUEの実現・体現アクションにつなげた。
VISION・VALUE実現に向けた社員の行動をより推進していくために、「VISION・VALUE アワード」の実施を計画。以下がアワード設計・実施時のコンセプト・注意ポイント。
組織文化として遠慮がちで奥ゆかしい社員が多い傾向にあったこと、現場社員を数多く表出したい意図があったこと、自薦方式の表彰制度「Good job」があること、の3点により他薦方式を採用。結果、受賞者からは「自分の仕事を見てもらえていることを実感した」「自分の仕事を取り上げてもらえて嬉しかった」といった反響が寄せられた。
「自薦か、他薦か」は、アワード・表彰式を設計する過程で、必ず議論になる話題です。以下にメリット・デメリットを整理します。
自薦のメリット
自薦のデメリット
他薦のメリット
他薦のデメリット
注意しなければならないのは、自薦と他薦どちらの場合でも、エントリーされたまま放っておくと上手く機能しないことです。特にアワードを立ち上げて数回の間は、マネジメント層がどれだけ積極的に関与できるかが重要です。マネジメント層へ働きかけ、選出・評価の観点を伝達・育成する機会を設けながら、アワード・表彰式の品質を高めていくことが求められます。
この事例では、社長からマネジメント層に対してエントリー促進のメッセージを何度も繰り返し伝えています。
表彰式の実施に際しては、最高の栄誉感、ステータス感の醸成にこだわっています。
こうして細かいしつらえで配慮しながら、さまざまな施策を展開しています。
2つ目の事例は、受賞者プレゼンテーションを中心としたアワード・表彰式の事例です。
この会社では、事前審査を経て受賞チーム・ファイナリストを選出します。そして、ファイナリストたちが全社に向けて案件プレゼンテーションを実施し、投票と審査で大賞が決定します。このファイナリストに選ばれている時点で素晴らしいことであるため、プレゼンテーションの前には全員が栄誉感ある演出で紹介されながら登壇します。
このアワードはプレゼンテーションに徹底的にこだわっており、一定以上の質を担保するため事前チェックや内容の磨きこみを大事にしています。
プレゼンテーションを質の高いものにする磨きこみフェーズでは、
を行います。このプロセスは発表者に任せきりにせず、ゼロインを含めた事務局全体で複数回の時間を設けてサポートしています。
受賞者インタビューをしていると、受賞されたみなさんは「当たり前のことしかやっていないんですが…」と話されます。高い成果を上げている方々なので素晴らしい行動をされているのですが、本人はその質の高さや中身の凄さに気づいていない場合がよくあります。
ここを事務局や外部パートナーが第三者視点でひも解き、プレゼンテーションに反映させて社内に伝えていくことが、意味のある場づくりにおいて非常に大事なポイントです。
このひも解きで活用できる質問が、「たとえば」「どれくらい」「なぜ」といったワードです。たとえば、「顧客に言われたらすぐに対応します」という回答があったときに、「すぐに対応」をそのまま受け入れるのではなく、10分以内なのか、1時間以内なのか、その日の間なのか、で行動のレベルはまったく異なります。こうした一つひとつの行動の差が「さすが受賞者」と評されるポイントとなります。
また、「なぜ、そこまでできるのか?」を深く聞いていくと、原体験として過去の大きな失敗があったり、その人の強い思いがあったりします。そうしたエピソードも併せて共有することが、プレゼンテーションを聞く社員たちの琴線に触れるポイントになっていきます。
このお客様に限らず、ゼロインがプレゼンテーションのコンサルティングやブラッシュアップに携わるときは、「いかに感情を伝えられるか?」を意識して取り組んでいます。
課題とそれに対する解決策・定量的な成果を、時系列で淡々と話すロジカルなプレゼンももちろん素晴らしいです。一方で、聞き手の仕事内容が受賞者の取り組みと遠く感じられる場合には、受け取る側の気持ちに差が出てくる恐れがあります。
そこで、「個人的な問題意識がどこにあったのか」あるいは「どこで、なんとかしたいというWILLが生まれたのか」といった、取り組みの背景から話すことを大事にします。
そして、背景を共有した上で「なぜその課題に向き合ったのか」を語っていきます。成果も定量的なものだけではなく、どのような社会的意義があるか、関係者や顧客からのリアルな声も交えながら語り、最後はそこから見えてきた次への思いや挑戦への決意で締めます。
仕事内容や役割が共通していることを前提に発表をとらえてしまうと、メッセージが届く範囲は限定されてしまいます。「なぜやろうと思ったのか」「どうしたかったのか」といった誰にでも沸き起こり得る感情を積極的に共有することで、結果的に共感や気づきのコメントが増えるのです。
3つ目は、表彰式の事前・事後施策や連携施策を総合的にプロデュースしたアワード事例です。この企業では、エントリー募集広報などの事前施策から、さまざまな関連施策を散りばめながら、「学び合い、称賛し合う文化」を育むことを目指しています。
表彰式という山場だけにフォーカスすると一過性のイベントになってしまい、社員の参加意識向上や日常業務とのつながりを生みだすことは難しくなります。事前・事後施策を新しく立ち上げる、もしくは社内報やイントラなど既存の社内コミュニケーションメディアを活用して、施策をアワード全体と連動させていくことで、学び合い称賛し合う文化づくりへの働きかけがより強固になります。
最後に、アワード・表彰式のステータスを高める3か条の紹介です。
この3か条を意識して設計・開催することで、アワード・表彰式は社員が目指したい最高のステータスになっていくはずです。ぜひ、学び合い称賛し合う文化づくりを目指し、アワード・表彰式に取り組んでみてください。
この記事の著者
露峰 一澄