『社内報のつくりかた』について何回かに分けてお届けしていますが、連載第二回目は“社内報の視点”について考えてみたいと思います。
私は、電車や駅の構内に貼ってあるポスターが好きで、気になったものはスマホで撮影しています。中でもマナー啓発的なものは「うまいなぁー」と感心することが多いのですが、みなさんはこんなキャッチコピーのポスターは記憶にありませんか?
『ぶつかった、とあなたは思う。ぶつかってきた、と周りは思う。』
歩きスマホに対する啓発ポスターですが、「視点が変われば、感じ方・捉え方は全く異なる」ということにはっと気づかされます。
これは社内報の編集場面でも、ぜひ気をつけていただきたいポイントです。
例えば、「競合一辺倒だった顧客を、新人の営業担当が頑張って新規取引を獲得した」とします。その難易度と営業の努力を伝えるために、「難攻不落の企業を新人が落とした」といった言い回しで表現したくなるかもしれません。そのすごさは伝わるかもしれませんが、果たしてこの表現で良いのでしょうか?
“難攻不落”、“落とす”といった言葉は、顧客を敵に見立てています。もしこの文章をそのお客さまが読んだらどうでしょうか。不快に感じるかもしれませんよね。社内で使われている言葉や表現は、知らず知らずのうちにお客様に染み出してしまうものです。社内報担当者は「周りはどう思う?」という視点を忘れてはいけないように思います。
新人営業がこの仕事にどんな思いで向き合っていたのか、具体的にどんな行動をしたのか、当事者視点で掘り下げることは大事です。一方で、上司や同僚、あるいは顧客に聞いてみると違った事実が見えてくるかもしれません。様々な視点から事実を捉え、読者視点で伝えるべき内容を精査する。そして顧客視点、世の中視点で見ても通用する言葉で表現していくことが、今の時代の社内報には求められるのではないでしょうか。
以前、社内報を創刊からお手伝いした、ある会社の社内報編集方針には「社会起点を持つ」ことが掲げられていました。社会起点をもった記事とは何なのか。単純に社外の方を登場させるだけではダメではないか。社外の方と社内の読者の“接点”を作るにはどうしたらいいのか。毎回の編集会議で侃々諤々と議論を交わしました。
その中で、トップメッセージを、経営陣と社外の方との対談を通じて伝えるという企画が決まりました。4人の役員の方にそれぞれ、有識者、小学生、看護師、大学教授といった市井の方々をペアリングして、これからの世の中や働くということについて対談していただきました。それぞれ興味深い対談になったのですが、小学生と対談した役員の方は「難しい言葉は使えない、かといってごまかしも聞かず、鋭い質問もくるのでものすごく緊張した(笑)」とおっしゃっていました。社会の声を起点に、あらためて自分たちの事業や仕事について考える、よい機会になったと思います。
社内報にこそ、顧客視点や社会の声、社会視点をもって考えてみる。そんな編集会議をしてみはいかがでしょうか。
この記事の著者
並河 研
株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。