昨年12月に株式会社野村総合研究所から発表された「日本の労働人口の約49%が、今後10年から20年の間にAIやロボット等によって代替される可能性がある」という内容は、衝撃的なものでした。
ただし、これは全ての仕事、職業で平均的に代替されるのではなく、芸術、歴史学、考古学、哲学、神学など抽象的な概念を整理・創出する知識が要求される職業や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性が求められる職業は代替性が低いとされていました。
これは人間が直接人間に対してサービスを提供する職業は残るという風にも解釈できます。※調査詳細はこちら
その意味では、人間同士のコミュニケーションを創出することでアクションに繋げていくインナーブランディングの領域は、より“人間らしい”職業として残っていくのかも知れません。
上位方針や戦略、ビジョンの浸透において「決まったことが実行されない」という現実は、多くの経営者や経営スタッフを悩ませてきました。その背景には、「人間は一見、社会的、合理的かつ論理的に動くように見えるが、実際には、個人的、感情的な理由で自分の行動を決めるから」という文脈があります。これは、実に“人間らしい”というべきでしょうか。
実はこの“人間らしさ”を生物学的な側面、脳科学(ニューロサイエンス)という知見を活かして見つめ直すという新たな取り組みが広がってきているようです。
脳科学の世界は奥深いため簡単にはとても紹介できませんが、例えば学習という経験では大脳新皮質の主要な4つの領野で信号が伝達されることで行われています。
脳は変化する環境を常に感知(感覚野の働き)し、形や色などインプットされた情報を関連付け(後頭連合野の働き)、さらに意識の関連付けと問題解決や創造的な活動に不可欠な機能である記憶と知覚経験を操作し、行動の計画を立て(前頭連合野の働き)、そして運動野に信号が送られアクションをコントロールする、というメカニズムです。
感覚野、後頭連合野、前頭連合野、運動野、この4つの領野に合わせて学習の柱を立てるとすると、「収集する」「内省する」「創造する」「検証する」というサイクルに変換できます。つまりコミュニケーションの受け手の“脳の立場”に立って、この4つのサイクルを機能させることができれば、学習やコミュニケーションの効果がグッと高まると言えます。
脳では信号の伝達によって情報のカケラが意味のあるイメージへと連合・結合されていくわけですが、まったく新しいことを学ぶ場合においても物事の解釈や理解は、過去の出来事や経験と連合されることによって深まるとされています。その人自身の過去の出来事や経験が多ければ多いほど、より強固な意味を持つようになるのです。
人に何かメッセージをする際、“相手の立場に立って”伝えるということは古今東西言われてきたことですが、“分かりやすく”伝えるということは、内容の分かりやすさはもちろんのこと、聞き手の過去の出来事や経験にフォーカスすることで聞き手の脳の中でいかに結び付けて認識させることができるか?ということになります。
いかに脳に理解させるか。インナーコミュニケーションを設計するときに留意してみてはいかがでしょうか。
※今回は、世界最大の人材開発の国際会議ATDなどから積極的にレポートされている株式会社ヒューマンバリュー様の書籍を参考にさせていただきました。(参考文献『脳科学が明らかにする大人の学習』編著:サンドラ・ジョンソン&キャスリン・テイラー 訳:川口大輔・長曽崇志 発行:株式会社ヒューマンバリュー)
この記事の著者
並河 研
株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。