「自分たちは変化対応業である」。こうしたテーマのトップメッセージを、最近さまざまな企業様で耳にします。トップメッセージは経営陣による熟慮を重ねて設計されているわけですが、どのようなテーマ設定が従業員により伝わるメッセージにつながるのでしょうか。
トップメッセージは企業の「生き残り」や「優位性を保つ」ために時間をかけ、経営陣が艱難辛苦の結果つくり出した素晴らしい戦略や組織かもしれません。しかし、もともと人間の脳は過去の成功体験あるいは過酷な経験を蓄積しており、無意識・意識的に強い刺激から自分を守ろうとしています。つまり従業員一人ひとりにとっては“新しい”戦略、組織、仲間、仕事のやり方は未知のものであり、自分を脅かすものだと本能的に認識されやすいものです。
そこで今回は1つの手法として、企業あるいは事業部門といったユニットにおける『方針・戦略・プロセス』と『体制・組織・人』の変化を、4つの象限に分けてトップメッセージを設計するフレームのご紹介です。
横軸の『方針・戦略・プロセス』を既存路線・新規路線の2つに分け、縦軸の『体制・組織・人』を既存・新規の2つで分けると、左上に既存路線×既存、右上に新規路線×組織既存、左下に既存路線×組織新規、右下に新規路線×新規と、4つの象限が生まれます。
左上の『戦略(既存路線)×組織(既存)』の場合、トップメッセージは「引き続き徹底してやり切ろう」「今までの〇〇に感謝」「創業から培ってきた価値は、現在につながっている。これからも大切にしよう」「互いのナレッジやスタンスをさらに共有していこう」「個人力に加えて、チームで取り組んでいこう」といった“現状に対する肯定”から入り、さらなる拡大・成長に期待をする内容になるでしょう。
一方でその対極にある右下の『戦略(新規路線)×組織(新規)』の場合、これはM&Aなどの企業統合や、新規事業への大幅なシフト、あるいは過去の業務プロセスや人事施策を大幅に変更するといった、社内環境が劇的に変化する状況があてはまります。
その場合、「これから目指す世界、実現したい社会は〇〇である」「それぞれの組織は今まで〇〇、△△といった背景で事業を展開してきた。今後はその強みを活かし、弱みを補填し、新しい組織で□□というビジョンを実現する」「お互いの組織の理念、歴史、ルーツを改めて知ろう。大きな目的は、結局1つである」「さあ、みんなで新しい未来に向けて動き出そう」といった“未来へのワクワク感”を強く意識したものになるでしょう。
実際にはもっと複雑な背景や文脈の中でのトップメッセージ設計になると思いますが、従業員が『方針・戦略・プロセス』×『体制・組織・人』の4つの象限でどのコンディションに置かれているのかを整理することは、トップメッセージに限らずコミュニケーションテーマを設定する上でヒントになるはずです。
この記事の著者
並河 研
株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。