従業員エンゲージメント調査に必要な、経営の覚悟と巻き込みのシカケ

従業員エンゲージメント調査は、インナーブランディングの身近なツールに

従業員エンゲージメント調査は、従業員を対象に業務内容や人間関係への満足度、待遇や会社への愛着、ビジョン・ミッションの理解度などエンゲージメントを定量的に測る調査です。企業や組織、職場の状況を可視化することで、分析・打ち手の検討を可能にします。

近年、クライアントやカスタマーなどの顧客エンゲージメントを高めるには、先行して従業員エンゲージメントを高めることが重要であると考えられています。また人材が流動化する中で、従業員の定着率・リテンションを経営課題に挙げる企業も増えています。

そうした背景も影響してか、従業員エンゲージメント調査のニーズも高まっているようです。一般財団法人労務行政研究所が大手企業を対象に行った調査では、2013年に36.5%だった満足度調査の実施率は、2016年には55.3%になっています。

従業員エンゲージメント調査はツールによって、「感情を定量化する」「ブランドの共感度をはかる」「仲間と会社への信頼の絆をはかる」など、可視化する対象を替えていたり、質問数や回答頻度が異なっていたり、仕様が異なります。

また、数年に1度の調査ではなく、頻度を増やして組織改革のスピードを上げることをうたい、クラウド化によって手軽さを実現したサービスも生まれています。初期費用・運営費用も身近になり、インナーブランディングの身近なツールとして定着してきているように思います。

従業員エンゲージメント調査の実施は、経営メッセージになることを意識する

私が担当する事業部門でも月に1度の頻度で調査を実施し、結果は部門内で共有しています。実際に運用した経験から痛感していることがあります。

1つめは、従業員エンゲージメント調査実施そのものが経営からのメッセージということです。

従業員エンゲージメント調査は、従業員からの要望ではなく経営が実施の最終判断を下すことがほとんどではないでしょうか。すなわち、調査を実施することは「経営は組織のコンディションを気にしている」というメッセージとして従業員に伝わるということです。

そして「満足不満は忌憚なく回答を」と伝えるということは、従業員は回答時に「結果の悪い項目は改善するんだよね」というマインドになります。つまり経営に対して、組織や環境に関する改善・改革の期待が高まった状態です。

経営としては結果を現実として受け止め、多少ショックを受けたりしながらも、問題を分析して課題を明らかにしていきます。しかし、すぐに対策を講じられることもあれば、そうでないこともあります。ここでもたもたしている、あるいは及び腰になってしまうと、従業員からの期待を裏切る結果となります。

少々物騒ですが、従業員エンゲージメント調査をするということは、何らかの改善アクションを必ず実行する、やりきる覚悟が経営には必要です。そうでなければ、効果どころか禍根を残す可能性すらあるのです。

現状に対して「自分は何ができるか?」、主語を変える

2つめは、主語の問題です。

従業員エンゲージメント調査の質問項目は、おおむね主語が「“あなた”の職場は」「“あなた”の会社は」という客観的な聞き方になります。インナーブランディングの観点で考えた場合、ブランドを体現する行動の主体は一人ひとりの社員であり、本来であれば主語は“自分”です。

「この会社って、どこに向かっているのか分からないよね」「上の方針が頻繁に変わるよね」といったどこか他人事の思考では、その組織を変えていく推進力は生まれません。会社・職場を客観的に捉える一方で、現状に対して「では、自分ができることは何か?」という言い換えを常にしながら、周囲を巻き込んだ課題解決行動に導いていくことが非常に重要です。

こうしたテーマにおいては、当事者意識を高める研修プログラムに結び付けることで、一人ひとりの主体的な行動を促進し、業績を向上させた企業もあるようです。

従業員エンゲージメント調査は、実施する以上は経営が改善の覚悟を持つこと。従業員を客観的な評価者で終わらせずに当事者意識を持って改善に巻きこむシカケがあること。このあたりを意識して運用していきたいですね。

この記事の著者

並河 研

株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。

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