酷暑もようやく落ち着き、3月決算の会社では間もなく上半期が終了します。この期が切り替わるタイミングで、表彰式・アワードを実施する企業も多いことでしょう。そこで弊社ゼロインで表彰式・アワードの設計や運営をお手伝いする際に必ずお伝えすることをご紹介します。
それは、達成率や昨対成長率、売上や粗利金額といった定量的な“結果だけ”ではなく、その「数字が持つ意味」を他部署や他職種にもきちんと理解できるようにしましょう、ということです。革新的な挑戦や事業への影響度など、金額の大小だけでは単純に測れない、それぞれの文脈があるものです。そして、高い成果をあげることができた「プロセスの可視化」も併せてご提案しています。
私たちは、この「数字が持つ意味」と「プロセスの可視化」は、表彰式・アワードを設計する上で最低限必要なものだと認識していますが、さらに一歩踏み込んで考えたいことがあります。
それは受賞者の選出基準です。優秀者として選出される従業員は、その時点の経営方針に従って大きな成果を出しているわけで、会社における“求める人物像”となるわけですが、この求める人物像は2つのタイプに分けられます。
1つめのタイプは、行動規範やバリューを体現している“ビジョナリータイプ”です。行動規範やバリューは「こういう価値観・判断軸であってほしい」「こういうスタンスでお客様に接してほしい」といった意志が反映されたもので、企業が描く経営理念やビジョンにもとづいて定められています。
おおむね3~7つぐらいの言葉で表現されることが多く、企業文化・風土、培われてきたDNAによって各社異なります。ディズニーランドの『SCSE』はつとに有名ではないでしょうか。私たちが経営理念やビジョンの策定をお手伝いをするときには、それらの実現に必要な行動を行動規範・バリューとして具体化しています。さらに、そうした行動が称賛されるよう、評価制度に組み込むことをお薦めしています。
2つめのタイプは、経営戦略の実現に向けて競合よりも相対的に優れた能力(行動)を発揮している“コンピテンシータイプ”です。このときに必要とされる行動は、戦略から戦術へとブレイクダウンすることで「これこそが競争優位性のある行動だ」と規定できます。しかし多くの場合、成績優秀者の行動特性を緻密に分解・分析することで抽出できる場合が多いものです。
私たちが受賞者に「優れた成果を実現した理由」をインタビューさせていただいた時には、「いや、アタリマエのことをしているだけですよ」と謙遜される方が大半です。しかし会社として評価・表出すべき行動は、本人がアタリマエだと感じている、何気ない日常習慣の中にこそ潜んでいるものです。
表彰式・アワードを実施する、あるいは社内報やポスターなどで社内に発信する時、このビジョナリータイプとコンピテンシータイプを混在してしまうことがあります。「今期、がんばった人!」と称賛することはもちろん間違いではありませんが、この2つは厳密には評価基準が違うため、経営からのメッセージ性が弱まる危険を孕んでいます。
また、常に業績・数字に追われる現場上層部からの圧力を考えると、どうしても短期業績につながりやすいコンピテンシータイプがもてはやされがちです。「ビジョンだけではメシが食えないよね」という言葉には、破壊力があります。
とはいえ、ビジョナリーなメッセージを従業員に浸透し続けないと、ボディーブローのように会社の基盤が少しずつ狂っていきます。昨今の不祥事はその典型かもしれません。また、未来に役立つ技術や事業に挑戦しようというチャレンジングな気概が薄れる可能性もあります。
最近では、ビジョナリータイプのアワードとコンピテンシータイプのアワードは時期をずらして開催したり、1回の表彰の中でも表彰部門を明確に分けて区別する企業も増えているようです。
表出の面でも、ビジョナリータイプのアワードでは本人のプレゼン形式にして、想いを中心に語らせる。コンピテンシータイプは、きちんとしたキュレーターをつけてインタビューを実施し、映像や図解を駆使した冊子を作成してフォローする。そうした演出での差別化も、ひとつのやり方です。
ビジョナリータイプとコンピテンシータイプ、どちらも貴重な経験資産であり、会社にとって欠かせない存在です。派手な演出、インセンティブだけではなく、本人や職場の仲間、企業にとって有意義な表彰式・アワードとなるようにしたいものです。
この記事の著者
並河 研
株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。