インナーブランディング年間戦略の立て方~後編~自分ゴト化するためのステップ

インナーブランディングを連載で考える

今回の連載では、インナーブランディングを推進するための年間コミュニケーション戦略の設計について、前・中・後編の3回にわたってお伝えしています。

前編では、年間コミュニケーション施策の整理の仕方や、メッセージを伝える際の情報整理の仕方を、前回の中編ではメッセージを伝えるターゲットの絞り方や、ターゲット社員の価値観に合わせた情報発信についてご紹介しました。

後編となる今回は、ビジョンや経営方針、全社戦略などを自分ゴト化させるためのステップと、コミュニケーション施策のマッピングについてまとめています。

新年度の方針や戦略、組織体制の変更などを伝える時の留意点は、「社員はそれを初めて聞く」ということです。通常、これらの上位方針は、経営層を核に経営企画室や広報室が1カ月あるいは数カ月にわたって、検討と検証を繰り返して作りあげていきます。そのため伝える側にとっては周知の事実であり、伝達する方針の背景となる情報などは当然のこととして刷り込まれています。

一方、受け手側の社員にとっては、そこで初めて聞くことばかりです。たとえば方針の背景となる環境変化は、伝える側にとってはもはや言わずもがなな情報で不要かもしれませんが、それを知らない社員にとっては、方針だけをきいてもそれがなぜ必要なのかが理解できません。当然、自発的な行動にはつながりづらくなります。

社員個々の情報量や認識、仕事に対するスタンスが経営層と同じであれば、おそらく問題なく上位方針は自分ゴト化され、ほどなくアクションへと移っていくでしょう。ところが現実はそうはいかないことを、伝える側の皆さんは嫌というほど経験されているのではないでしょうか?

方針を自分ゴト化しアクションを当たり前にしていくには、ステップを踏んで社員の理解や気持ちをつくっていくことが必要なのです。

自分ゴト化するためのインナーブランディング4つのステップ

必要性、背景の理解

方針や戦略が生まれた背景、あるいは何故その体制変更が必要なのか、まずは伝える側と受け手側の前提情報を揃え、同じスタートラインに立つことが大切です。

このギャップを埋めるためには、経営者の頭の中を細かくブレイクダウンする必要があります。社内に閉じた話だけではなく、市場環境の変化、競合の多様化、それに伴い社内で起きている変化など、事実ベースで伝えていきます。曖昧なイメージや感情ではなく、数値や具体エピソードを交えた情報を伝えることをオススメします。時にはこのままいけば状態が悪くなるのではといったワーストシナリオを描いて、健全な危機感を持ってもらう必要もあるでしょう。

前述したように、伝える側と受け手側では持っている情報量が違います。特に中長期レンジかつマクロに経営を見ている経営者と、日常業務のミクロに向き合っている社員とでは、視界も見えている世界も異なります。この視界を多少なりとも共有することなしには、次のステップに進めません。

課題や目指すものへの理解と共感

必要性、背景が理解されたら、次のステップは目指す姿や将来ビジョン、実現に向けた課題、その解決策や変化のシナリオを伝えます。

ここでも、「生産性を上げる」「顧客課題に寄り添う」といった抽象的なビッグワードではなく、目標とする具体的な数値や生み出したい仕事のシーンを描き伝えることで、ビジョンや今後取り組む変化のシナリオに対して、納得や共感、さらには期待感やワクワク感を生み出していくことができるのです。

施策、方法の理解

ビジョンに共感しても、日々の仕事は急には変えられないものです。そこで次のステップが、「何をどうすれば良いの?」に対する答え、すなわち具体的な施策や方法論の提示です。おそらく、新しい方針や戦略は、いきなり生まれたものではなく、現場に「兆し」があったはずです。たとえ社内に兆しがなくても、世の中にはあります。それらを取り上げ、等身大で伝えていきます。また、新しいアクションを全社的に推進する、あるいは、阻害するようなこれまでの慣習的なルールを排除していくといった宣言をするのも後押しになります。さらに人事面でも評価するなど、様々な形で会社のバックアップが明確になってきて、ようやく「やれるかも!」と一歩踏み出せる状態になるのです。

確信

ここで手を抜いてはいけません。「やれるかも!」を「もっとやろう、皆でやろう!やりきろう」というところまで行って、初めて自分ゴト化と言えます。そのために、社内のあちこちで起き始めたトライ&エラーの中から、成功事例をとりあげて評価、称賛し、さらにロールモデル化していきます。それによって「そうだ!これで良いのだ」という状態、つまり社員に「自信」を生み出すことができます。それがアクションを加速させ、より高度なチャレンジへとつながっていくのです。

自分ゴト化のステップを活用した、インナーブランディング施策のマッピング

この自分ゴト化のステップを念頭に置きながら、みなさんの会社全体の現状を見渡した時、どんな状態にあるでしょうか? 必要性や目指す姿、具体的な行動などが理解・認知されていますか。さらにそれらが納得・共感され、具体的な行動が生まれ始めているでしょうか。そんな一歩を踏み出した人たちの行動や方法は、社内で共鳴をよび、拡がっていきつつありますか。逆に、せっかく生まれ始めた自律的な行動を、一貫しないメッセージや評価の仕方によって阻害していないでしょうか。

組織やターゲット層ごとに、どのフェーズにあるかは異なるかもしれません。いずれにせよ、この組織状態を踏まえて、コミュニケーション施策を考えていくことが重要です。ぜひ、現在実施している、あるいは計画中のコミュニケーション施策がどのフェーズの課題に対するものなのか、マッピングしてみてください。施策の偏りが発見でき、見直しや新たな施策立案のヒントとなるのではないでしょうか。

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この記事の著者

並河 研

株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。

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