今月より何回かに分けて『社内報のつくりかた』について、私個人の経験をもとに皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
私が入社して“広報パーソン人生”をスタートすることになったリクルートでは、社員が3人の時から社内報『週刊リクルート』を発行していました。創業者である江副さんの強い意向があり、そこには組織と個人の関係を心理学的なアプローチで解いていこう、参考にしていこうという視座があったように思います。ドイツの社会心理学者エーリッヒ・フロムの言葉をひいて「愛することは知ることから始まる」と江副さんがよくおっしゃっていたことを思い出しますが、経営者と現場の社員が同じ情報を持つための情報プラットフォームとして社内報を重要視していたわけです。
さて、『社内報のつくりかた』連載の第一回目は「編集会議を編集する」というテーマでお届けします。
「編集会議」とひとことで言っても、会議の目的はそれぞれです。ここでは、社内報自体の発行目的、編集方針、コンセプトといった上位方針を決める会議を「企画会議」、各発行紙面の具体的な内容を決める会議を「編集会議」と置いておきます。後者では、どのようなテーマで、なにを取り上げて、いつ、だれに、どのように表現するか、それによって読者にどのようなアクションを起こしてもらうか、ということを話していきます。
今回は「編集会議」について掘り下げてみたいと思います。実際によくあるシーンを例に、編集会議の時間の使い方を考えてみましょう。
社内報は定期刊行物であるがゆえに、必ず掲載しなくてはいけない情報や定番コンテンツがあります。定番コンテンツが、取材を要するものだとすると、編集会議では「今回はどの部署のだれに取材をするのか」「だれが取材し、記事をつくるのか」を確認することになります。
その取材相手が妥当なのか、事前に上司に確認や根回しをする時間も必要です。年に数回しか発行しない全社の社内報の場合は、さらに取材者選定の難易度があがってしまいます。発行されるタイミングで組織改編や本人の異動、退職なども考えられるからです。そういった人事情報が常に社内報事務局に届いているとは限らないのです。
また取材を要するものに限らず、福利厚生的な社内のクラブ活動や、各支店や部門ごとのイベントレポート、オススメのランチ紹介、名物社員の紹介など、当時リクルートでは『ワイガヤ』と呼んでいたような、情報提供のコンテンツもあるはずです。ここでも、「今月クラブ活動していた部はどこか」「紹介するお店はどこにするか」など意見を出し、決めることがたくさんあります。
「ここまでで、あっという間に30分は経ってしまった。」そんな経験があるのではないでしょうか。
しかし、貴重な編集会議の時間の中で、これら定番コンテンツの内容に大きく時間を割いてしまうと、「テーマ選び」や「テーマの深堀」「テーマの語り方」など芯を食った議論をするための時間がどんどん減ってしまいます。
社内報のお手伝いをさせていただいているお客様とは、ワイガヤに関する議論の時間は極力減らすようにし、編集会議の冒頭で「いま、全社で話題、課題になっていること」「経営ボードの現状の認識」などについて確認する時間を設けています。ワークショップでよくやるような「CHECK IN」の時間です。話しやすい場にしながら、自然にテーマにも意識が向きやすくなります。
「読者」に対してきちんと想いを馳せられる時間をとることも重要です。今回の特集や定番コンテンツを読んだ「読者」、つまりその時々に設定したインターナルブランディングのターゲットである社内の方々がどのように思うのか。「読んでよかった」と思える読者の利益を考えられているか。あるいは読者が利益を得るためには、どのような記事にしないといけないのか。そんなことを考える時間です。
以前、ある企業さんのオフィスデザインをご提案し施工させていただいた際に、経営ボード専用の会議室に1脚だけ色の違うイスを置くことになりました。そしてその椅子は会議中常に空席です。「そのイスに座っているのは、カスタマーだから」です。社内報の編集会議デスクに、毎回そんな“想定読者”がいると意識して、議論してみるのも良いかもしれません。
一度編集会議そのものを見直してみてはいかがでしょうか。
この記事の著者
並河 研
株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。