いま働き方も含めて「新しい生活様式」が提言されていますが、従業員の価値判断や行動様式に大きな影響を及ぼすのが企業文化です。では、この企業文化の特性の違いは、従業員エンゲージメントにも何らか影響を与えるのでしょうか。2019年末に総研で実施した調査結果を分析したところ、エンゲージメントを高めるために重要な要素が見えてきました。これからの社会でどう企業文化を変えていけばよいのか、何らかのヒントになれば幸いです。
今回、様々な企業規模・業種・役職・年齢層の800名の方に、企業文化の特性とエンゲージメントについて、アンケート調査を実施。回答者の所属する企業がもつ文化の傾向を、コミュニケーションと思考・判断のスタイルにわけ、対応する二つのスタイルのうちどちらの傾向に近いかを回答してもらいました。
たとえば、「肩書きを重視する」or「肩書きにとらわれない」、「手続きを優先する」or「スピードを優先する」など、組織内外のコミュニケーションにおいて、多様性やオープンな姿勢を重視する傾向か、同質性やクローズドな姿勢を重視する傾向かを測定。同様に、組織での思考や判断の場面において、「理屈や経験を重視する」or「感情や感覚を重視する」、「確実性を求める」or「革新性を求める」など、合理性や厳格な判断を重視する傾向のロジカル思考スタイルか、直観や感情を重視し多少の曖昧さも許容するアート思考スタイルかを測っています。
これらを得点化して2軸にマッピングしたものが、図1になります。
結果、52%が[クローズ×ロジカル]傾向な組織であることがわかりました。業種や職種などによる偏重も見られず、これは日本の企業文化の特性と言えるかもしれませんね。
また今回の調査では、企業文化特性とエンゲージメント・ドライバーとの相関関係を分析しました。エンゲージメント・ドライバーとは、インターナルブランディングにおいて影響度のある重要な力を、3要素6因子にまとめたものです(図2)。エンゲージメント・ドライバーの詳細とそれぞれの因果関係については、こちらで解説しているのでぜひご一読ください。(世代によって大事な因子が異なるため、施策を考える上で注意が必要です。)
まず文化特性のうち、コミュニケーションスタイルの違いとドライバー因子の相関を分析したのが下の図3です。一目見て分かる通り、マネジメント・コミットメント・ダイバシティのすべての力において、クローズ層よりもオープン層の方が有意な差として高い結果となっています。
SNSがコミュニケーション手段として当たり前となり、社内コミュニケーションツールも主流はメールから、よりリアルタイム性の高いものに移行しつつあります。日々変化し続け、スピード感のある対応や判断が求められる事業環境にあることも大きな要因かと思われます。従業員はもとより、退職者やパートナー企業など、関係ステークホルダーの口コミやレコメンドが企業の評価やブランドに大きく影響する時代です。社外にもオープンになることを前提に、社内コミュニケーションで使う言葉やメッセージを考えていくことが大事ではないでしょうか。
また、正解がないビジネス環境下では、情報をできるだけオープンに共有し、現場の声を素早く取り入れ、全員で更新しながら正解にしていく方が、うまくいく可能性が高い。クローズドがダメという事ではなく、オープンスタイルが時代にフィットしてきたとも言えるのではないでしょうか。
今回の調査結果もコミュニケーションスタイルの軸だけで見れば、36.2%の組織がオープン傾向にあります。コロナ禍によってリモートワークが一気に進んだこともあり、今後どんどんこの傾向が加速していくことは間違いありません。リモートワークでは、業務コミュニケーションだけでなく、雑談などの業務外コミュニケーションが大事とも言われています。これからは、オープンさに、クローズド=親密さをとり入れたハイブリッドなコミュニケーションスタイルがエンゲージメントを高めるポイントになるかもしれません。
続いて思考・判断のスタイルと各エンゲージメント・ドライバーとの相関関係を分析しました(図4)。マネジメントとダイバシティの因子では大きな差はありませんでしたが、コミットメントの2つの力「推し進める力」と「推奨する力」を見てみると、ロジカル層よりもアート層が有意な差で高い結果が出ています。
マネジメントや他者との協働シーンにおいては、合理的な説明も感情的な共感もともに大事です。ただ、いざ実行するとなると、理屈だけでは動けない、と言うことでしょうか。こちらはVUCAと言われる時代背景が影響しているのかもしれません(VUCAについてはこちらを参照ください)。不確実で複雑で変化が日常の環境では、合理的判断で実行したからと言って成果につながるとは限りません。そうであれば、自分の直観に従った方が納得感を持って実行できます。好きやワクワクすると言った感情があれば、壁にぶつかっても継続的に挑戦でき、その結果うまくいく確率も高まります。会社からの指示だからやる、といったMUST感ではなく、組織の目指すものと自分のWILL(やりたい)との接点を見つける場や機会をつくっていくことが、アート思考な組織文化を育んでいくベースとなるのではないでしょうか。
今回の分析結果からは、オープンコミュニケーションかつアート思考な組織文化を育んでいくことで、従業員エンゲージメントが高まることが見えてきました。働き方や行動様式が一気に変化する今こそ、組織全体でコミュニケーションや思考・判断のスタイルを変革する絶好の機会ではないでしょうか。
この記事の著者
三宅 柚理香
株式会社ゼロイン シニアコンサルタント
1997年からリクルートグループにおいて人材領域を中心に採用広報の企画・制作に携わる。2010年、株式会社ゼロインに入社。インターナルコミュニケーションのコンサルティング、コーポレートブランドの策定・浸透サポートなど多数プロジェクトに従事。現在はシニアコンサルタント 兼 コミュニケーションデザイン総研責任者。