インターナルブランディングパートナーとして、人・組織の“ありたい姿”の策定と実現を支援する株式会社ゼロインが、従業員エンゲージメントの高い組織づくりに役立つノウハウをお届けします。
この記事では、コーポレートブランドの策定・浸透サポートやインターナルコミュニケーションのプロジェクトを多数手掛ける三宅が、インターナルブランディングの最前線をお伝えします。
前回の記事(人的資本経営とインターナルブランディング)では、VUCA時代においては、社員一人ひとりが持つ知を混ぜ合わせ、挑戦と改善をし続けることでイノベーションを生みだすことが不可欠である、とお伝えしました。その実現には、組織内に「ともに学び合う文化」を醸成する必要がありますが、そうした組織文化醸成のためにもっとも取り組みやすく効果的なのが、ブランドを軸にしたアワードです。
「アワード」は表彰式(表彰制度)と同一視されがちです。しかし、表彰式がイベント単体で完結しているのに対して、アワードはエントリー、審査・選出、表彰などの称賛施策や場、内容共有、事後施策に至るまで、一つのストーリーで構成された一連のプロセスがその範囲となります。
アワードはさまざまな目的・種類で実施されますが、今回の「ともに学び合う文化」醸成の観点では、ビジョンやバリューといったコーポレートブランドの体現行動や、その行動の結果を共有・表出する「ブランドアワード」を主眼に置いた取り組みが効果的です。
業績などで順位をつけるランキング表彰は、変化が当たり前で多様化の進むVUCA時代では従来のような同一基準での相対比較が難しく、社員からの共感・納得は得られにくくなっています。また、ベストプラクティスのようなナレッジ共有も、最適なプロセスや手法はすぐに陳腐化してしまいます。半年や1年ごとの間隔で開催される全社共有の機会を待たずに、組織ごとに、頻度高く日常的に情報を共有・流通させる方が効果的です。
一方で、ブランドは企業の根底を形づくるものであり、全社横断で特別感のもと表出、共有、称賛することで、ブランドへの共感や誇り、学び合う文化を醸成していくことができます。
ビジョンやバリューといったブランドの言葉は一定の抽象度があるため、社員によっては「どのように解釈すれば良いのか」「どのように行動すれば良いのか」、迷う場合があります。そのとき、具現的な事例として現場で実際に生まれた社員のブランド体現行動をアワードで表出することで、言葉の持つ意味や世界観、可能性の広がりをあらためて感じることができます。
ここで大事なことは、単純に「やったこと」や「成果だけ」を共有するのではなく、その過程にどのような思いや葛藤、決断があったのか、その人の価値観やWILL、スタンスをひも解いて共有することです。エモーショナルな部分に触れ、追体験することで、事業・職種の違いを越えて共通するものを感じ取ったり、多様な人材やチームとそのやり方にヒントを得たり、「自分もやりたい」というWILLが生まれたりするのです。
つまり、「共有」の機会づくりがブランドアワードのポイントといえます。弊社で「表彰施策の実施状況とエンゲージメントドライバとの相関分析」を調査したことがありますが、社員のコミットメント度合いを示す「推し進める力」「推奨する力」といったドライバにおいて、「表彰のみ実施」と「表彰にくわえて内容共有まで実施」の場合では、大きな差がありました。
共有の形式はどうあれ、表彰だけではなく内容にまで踏み込むことで、エンゲージメントは高まりやすくなる、ということです。ゼロインのこれまでのプロデュース経験でも、周囲への感謝や今後の抱負などの短いスピーチだけで終わらせるのではなく、しっかりと時間をとった受賞者プレゼンテーションの実施や、映像や社内報・冊子を活用した受賞者インタビューを共有すると、社員の満足度が高くなる傾向があります。
「表彰式のマンネリ化を避けるために、何か新しい演出方法はないか」という相談をよくいただきます。賞グレードによるメリハリをつける工夫は必要ですが、毎回のように新しい演出を取り入れて変化をつけていくと、演出がインフレするばかりで、逆にステータスシンボルが生まれにくくなります。
ゼロインは、「良い意味でのマンネリ」をつくることで、表彰・アワードのステータスをつくることが大事だと考えています。社員に飽きられてしまうとしたら、それは演出の問題ではなく、形式的な進行・運営が原因です。内容共有をしっかりと行えば、新しい気づきや学び、感情に訴えるストーリーがあり、受賞者への興味、ひいては表彰・アワード自体への興味は自然と生まれていきます。
実際、表彰式で長時間かけて相当数の社員表彰を行っていたお客様において、賞の優先順位を整理して演出にメリハリをつけ、新しく内容共有やスピーチの時間を取り入れたところ、社員の反応が随分と変わったことがありました。社員が注目する場で、共感する、感動するプレゼンテーションがあれば、「いつか私もあの場に立ちたい」「自分の思いを共有したい」と、「全体の場で語れることが栄誉である」という文化が醸成されます。
「うちの社員はスピーチが苦手で」といった担当者様の声も聞かれますが、最初は慣れない社員が多くとも、繰り返し実施していくことで語りの質は確実に向上していきます。さらに、受賞者ごとに多様なバリエーションがあることで、参加社員は興味を惹きつけられ、場の満足度は向上していきます。
ただし、受賞者本人に任せきりでは、プレゼンテーションやスピーチの質を上げる難易度は高いと感じます。客観的に見てすごい行動やスタンスでも、受賞者本人にとっては「当たり前」にやっていて、自分ではすごいことだと認識していないことも多いからです。
この「何が素晴らしいのか」「何を共有するか」は、ブランド観点や全社観点で要素抽出できるマネジメントや外部コンサルタントの活用が効果的です。第三者の視点で共有ポイントやその源泉をひも解くことで、プレゼンテーションの質も、伝わり方も格段に上がります。同時に、「なぜその課題に気づいたのか、向き合えたのか」「どのように壁を乗り越えられたのか」といった問題意識やWILLを取り入れたエモーショナルな要素を組み入れていくことも、気づきや共感を生みだす重要なポイントとなります。
なお、プレゼンテーションやスピーチに対する参加社員のリアクションやコメントは、参加社員にとっても受賞社員にとっても嬉しいものです。オンラインであればさまざまなツールで可視化できますので、そうしたツール活用は積極的に挑戦してみましょう。
受賞者の内容共有と称賛の場は、アワードという一連のプロセスの中のピークとなる、まさに山場です。この山場での細部へのこだわりが、受賞社員や参加社員の体験を形づくり、アワードの成否を左右します。一方で、「受賞者は一部のすごい社員のための場で、自分には関係ない」とならないように、広い裾野をつくって多くの社員を巻き込んでいくことが大切です。
では、社員を巻き込むために、アワードにおけるエントリーや審査の基準づくり、事前・事後の広報や称賛施策を含めたプロセスはどのように設計していけば良いのでしょうか。次回はこのプロセス設計のポイントをお伝えします。
※記事の続きはこちら:カルチャーにマッチするブランドアワードのつくり方
この記事の著者
三宅 柚理香
株式会社ゼロイン シニアコンサルタント
1997年からリクルートグループにおいて人材領域を中心に採用広報の企画・制作に携わる。2010年、株式会社ゼロインに入社。インターナルコミュニケーションのコンサルティング、コーポレートブランドの策定・浸透サポートなど多数プロジェクトに従事。現在はシニアコンサルタント 兼 コミュニケーションデザイン総研責任者。