社内広報の手強い敵『忘却曲線』

社長のスピーチは20%しか記憶に残らない?

この4月、入社式や社員総会・キックオフ、経営方針発表会、中期経営計画発表会など、多くの企業様でコミュニケーションイベントが開催されたことと思います。

時間をかける企業様では昨年末あたりから、多くの企業様では事業計画の着地が見えて次の打ち手が固まる2月あたりから、トップとの打合せや数多の手直しを経て、当日を迎えられたことでしょう。当日を無事に終え、参加者アンケート結果もまずまず。一息ついて、GWが明けた…、といったところでしょうか。

こうした社内イベント、非常にパワーのかかるものですが、残念ながら“4月に伝達したトップメッセージは、5月にはその80%が忘れられている”可能性があります。「そんなことはない。今回はPPTやメッセージ、演出にもこだわったので、伝わっているはずだ!」という事務局の方々の声も聞こえてきそうですが、私たちには『忘却曲線』という手強い敵がいます。

ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが時間経過による記憶の定着率を実験・研究した結果、人間は記憶したことを20分後に42%、1時間後に56%、1日後にはなんと74%を忘れてしまうそうです。その後は曲線が緩やかになり、1週間後に77%、1ヵ月後には79%を忘れられ、残りの約20%が記憶として定着するというものです。

経営方針や戦略に関することは日常業務やマネジメントの中でも語られることが多く、ここまで極端ではないと思いますが、実はこんなエピソードがあります。

昨年の夏、あるお客様のインナーコミュニケーション改革をお手伝いした際、経営方針やトップメッセージがどのように現場の方々に伝わっているか、インタビューを行いました。そこで4月に開催された社員総会での社長スピーチや、経営戦略について感想を聞いてみたのですが、ある方はなんと”社員総会があった”ことすら覚えていませんでした。

その社員総会では、メッセージ構成を極力シンプルにしようと、表彰式以外のコンテンツを社長スピーチ1本に絞り、PPTデザインにもこだわって丁寧に伝える、という方法をとっていたのですが…。

大事なことは、6回伝える

話をエビングハウスの忘却曲線に戻しますと、記憶の定着率を少しでも上げるには“復習”が決め手とされていて、これは皆さんも体験的にご存じだと思います。

カナダのウォータールー大学の研究結果では、24時間以内に10分間の復習をすると記憶は100%に戻り、その次は1週間以内に5分、その次は1ヵ月以内に2~4分復習すれば、記憶は復活すると言われています。

つまり社員総会の翌日、例えば朝のミーティングなどで10分ほど、昨日の社長スピーチについて“おさらい”をする。翌週には社内報で記事を配信し、1ヶ月後に経営陣や社長メルマガで目にする機会をつくる。といったことになるでしょうか。

社長や事務局は何ヶ月も前から準備に関わり、何度も議論しているので既に分かっていますが、社員総会当日は“初めて”聞く人がほぼ全員です。そのことを固く肝に命じ、しつこく粘っこく忘却曲線と戦うことが、地道ではありますが王道のようです。

私も新人時代広報室で勤務していた時は上司から「大事なことは、6回ぐらい伝えなさい」と言われていたことを思い出しました。

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この記事の著者

並河 研

株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。

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