経営メッセージの浸透には、マーケティング視点を活用する

経営スタッフが苦闘する、中期経営計画の浸透

3月・4月ごろの期末期初の慌ただしさに始まり、人事評価や昇進、方針発表会、株主総会、そして新卒採用と、あっという間に8月の声が聞こえてきました。例年この時期になると、そろそろ上半期が終了するので、「次期の中期経営計画をどう創っていくか」という議論が始まります。経営スタッフは本当に気が休まりません。

一方で、この中期経営計画や長期ビジョン、精魂込めて策定した割には、なかなか現場まで浸透しません。

「私が社長になったのを機に、環境変化やグローバルコンペティションにも耐えられるような、より能動的な動きをしていこうという思いを込めて中期経営計画を策定したんですよ。エリアごとに社員総会を開催して私から直接話しましたし、ミドル層とはランチミーティングを積み上げて会話をしているんです。ところが、どうも伝わっていない気がするんです。もちろん社長メルマガも配信していますよ」

このようなご相談をちょくちょく受けます。

浸透を促進させる、3つのポイント

こうした場合、考えられるのは3つのポイントです。

1つめは、中期経営計画や新たなビジョン・ミッションが、言葉として磨かれているかどうかです。考えてみれば当たり前なのですが、経営トップやスタッフは半年も前から内容を練りに練って作成していきますから、知っていること、既に話した内容が増えていきます。メッセージをシャープにするために、切りすてられた文脈もたくさんあるでしょう。

ところが、実際に発表する時は、社員の大部分は“初めて”聞くこと、読むことになります。分かりにくい経営側の言葉が多用されていたり、平凡なビッグワードが並んでいたりしては、初見の聴衆のアタマやココロには届きません。表現には、聴衆に刺さる演出、磨きが必要です。

2つめは、受け手側の心理プロセスを設計しているかです。マーケティングの世界では「A・I・D・M・A」理論というものがあります。古典的な消費行動モデルとも言われていますが、Attention(注目)、Interest(興味・関心)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)と、商品を認知してから、実際に行動するまでの5つの段階を心理プロセスに従って分類したものです。

これを中期経営計画にあてはめてみると、「お、次の中期経営計画か。前回のものと何がどう違うんだろう。っていうか前回のものをあんまり覚えてないな。ポスターのスローガンは見たことがあるけど…」「うん?!今日は、いつも社長が言ってることとは、ちょっと違うぞ。現場感あるし、近未来のことについても我が身のことのように思える」「この中期経営計画をやり切れば、自分も成長できそうだし、世の中に貢献できそうだ…!」これぐらいの心理プロセスを経るような設計が必要です。一言でいうと「ワガゴト化」させるようなコミュニケーション設計をしてみましょうということです。

ワガゴト化させるためには、一方通行で伝えるだけではなく、ミドルや現場リーダーを交えて、近未来の市場環境を予測するプログラムを入れてみたり、現場で起きていることや顧客からの声を集めて、「このままでは良くないよね」「変えていこうね」、といった健全な危機意識を持つ場を経営陣と現場を交えて持ってみたり、いろいろ工夫されている企業もいらっしゃいます。

3つめは、経営トップ自らが、「社員全員に伝えるのだ」「社員全員が実行していくのだ」と決意し、実行を促進できるような仕組みを作り、アクションすることです。いくら、経営方針で新しいこと・革新的なことを謳っていても、現場の上司が「そんなことより今日、明日の数字だ」と言ったり、革新的なことに挑戦した人・失敗した人が大きく称賛・評価されないような人事制度のままだったりしてはは、社員は実行しません。

AIDMA理論の後半、Memory(明日からの仕事で是非やってみよう、やらせてみよう)、Action(よし、やるぞ!)にあたる部分とも言えますね。

インターナルなコミュニケーションを全部マーケティング理論で語るのは少々無理があるかも知れませんが、経営トップが掲げるビジョン、実現したい世界、作りあげたいブランド(世界観)を最初に「買う」のは、従業員なのだと考えてみることも重要ではないでしょうか?

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この記事の著者

並河 研

株式会社ゼロイン 取締役副社長
1984年リクルート入社。広報室でインナーコミュニケーション施策や教育映像を手がけ、40年超の歴史を持つ社内報『かもめ』2代目編集長を務める。2009年ゼロインの取締役就任。以降、多数の企業で組織活性化をプロデュース。並行してアメフット社会人チーム『オービックシーガルズ』運営会社、OFC代表取締役としてチームをマネジメント。

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