従業員エンゲージメントを強固にする、“ありたい姿”と企業文化のアップデート

インターナルブランディングパートナーとして、人・組織の“ありたい姿”の策定と実現を支援する株式会社ゼロインが、従業員エンゲージメントの高い組織づくりに役立つノウハウをお届けします。

この記事では、コーポレートブランドの策定・浸透サポートやインターナルコミュニケーションのプロジェクトを多数手掛ける三宅欣広が、インターナルブランディングの最前線をお伝えします。

従業員エンゲージメントが求められる背景

編集部(以下、編):組織課題における従業員エンゲージメントの重要性が高まっています。株式会社トレンド・プロが2021年11月に行った調査では、人事部・経営層が考える「組織課題として最も関心の高いテーマ」の1位が「従業員エンゲージメントの向上」でした。従業員エンゲージメント市場の規模は拡大しており、毎年20~30%のペースで成長しています。なぜ従業員エンゲージメントが求められているのでしょうか。

三宅:私たちがお手伝いするプロジェクトでも、従業員エンゲージメントを重視するお客様が増えています。5年ほど前からご要望が増え、徐々に盛りあがりをみせていましたが、2018年から2019年にかけてエンゲージメントやパーパスに関する書籍が多数発売されたころから、より顕著になりました。

従業員エンゲージメントは企業によってさまざまな定義がありますが、世界的なコンサルティング会社のウィリス・タワーズワトソン株式会社は、従業員エンゲージメントを次のように定義しています。

従業員エンゲージメントとは、企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていることを指す。言い換えれば、組織の目指すゴールに対する「自発的貢献意欲」を意味する。

※引用:https://www.wtwco.com/ja-JP/Insights/2019/10/hcb-nl-october-yoshita-okada

なぜ従業員エンゲージメントがこれほど求められるようになったのか。その背景には、いくつかの要因が考えられますが、この定義にある「目指す姿や方向性」や「自発的貢献意欲」がキーワードになっていると考えています。

働く人が「企業を選ぶ」時代への変化

まず、労働人口の減少、副業・兼業やフリーランスなど働き方の多様化、働くことの価値観自体が変化していることが、大きな要因として挙げられます。

人材の流動化が進み、新卒・中途採用の難易度が上がる中で、「優秀な人材が、いかに自社で働き続けてくれるか」は重要な経営課題です。企業が強い立場から「働く人を選ぶ」のではなく、働く人がこの会社で働きたいと「企業を選ぶ」時代へと変化しています。

そのとき、職務や待遇だけではなく、パーパスやビジョンなど会社が掲げる“ありたい姿”や、組織の雰囲気や文脈をつくりだす企業文化に、「共感できるか」「マッチしているか」が会社選びの要素として重要視されます。特に「Z世代」を中心とする若い世代は成熟した社会で育っており、物質的な豊かさ以上に、「自分らしく働けるか」や「社会貢献」「社会的意義」を大事にする傾向があると言われます。

企業はこうした変化をとらえて、自社の「存在意義」や「大事にすること」をあらためて明確にし、社内外に積極的に共有するようになっています。そうして、企業の“ありたい姿”(=パーパスやビジョン)と個人の“ありたい姿”(=キャリアや生き方)が重なり合うことで、その会社で働く(働き続ける)意味が生まれ、エンゲージメントの高い組織が実現できます。

特にこの数年はコロナ禍によって、会社と従業員、従業員同士のつながりや結びつきが薄れており、パーパスやビジョンといった理念・ブランドの策定・再構築に取り組む流れが一気に加速したと感じています。

予測困難な時代に対応できる、自律・自発の組織

さらに、VUCA時代と呼ばれる「変化が激しく予測困難な時代」に突入し、オペレーションの型化・効率化といった工業生産的なモデルだけでは市場で通用しづらくなってきたことも要因に挙げられます。

過去の成功モデルがすぐに陳腐化し、誰も正解を知らない時代において、成功に再現性は生まれにくいものです。そのとき、会社の目指す“ありたい姿”にもとづいて、従業員一人ひとりがみずから考え、新しいことに挑戦していくような、自律的で自発的な組織づくりが重要になります。

経済産業省が取り組む『人的資本経営の実現に向けた検討会』でも、従業員エンゲージメントについて言及されており、人材戦略に求められる3p・5Fモデル(3つの視点と5つの共通要素)のうち、5つの共通要素のひとつに数えられています。

個人が多様な経験や価値観を共有し、お互いの強みを活かしながら自発的に行動していく組織でなければ、経営戦略を実現し、持続的な企業価値の向上を実現することは難しくなっているのです。

コミュニケーション施策では、従業員参加型コンテンツが増加

社員総会・キックオフといった社内イベントのシーンでも、実施内容に変化が生まれています。かつては経営計画やトップメッセージなど壇上からの上意下達で終わっていた会社でも、「従業員をどのように巻き込むか?」を重視したコンテンツ企画のご相談をいただき、イベントコンセプトを根本的に見直す機会が増えています。従業員参加型のワークショップは特に人気で、自分の考えを周囲に共有し、周囲の考えを知る場を設けています。

経営や表彰受賞者のプレゼンテーションを実施する場合でも、「どのように理念とのつながりを持たせるか?」を非常に大事にしており、メッセージコンセプトや発表スライドのブラッシュアップを何度も繰り返しながら、徹底的にこだわっています。

従業員エンゲージメントの定義にある「自発的貢献意欲」を創出するには、従業員一人ひとりが自社の“ありたい姿”を理解することが前提になります。そのうえで、“ありたい姿”の世界観に共感してワクワクできなければ、「やりたい」「実現したい」と内側から湧きあがる、行動につながる自発的な意欲を持つことは不可能です。

これまで、ひとつの社内イベントとして“点”で考えられていた社員総会・キックオフは、中長期で取り組むブランド・ビジョン浸透プロジェクトにおける施策のひとつとなり、全体設計の中での位置づけ、役割が意識されるようになりました。効果測定でも、イベント満足度を聞いていたアンケートが、エンゲージメントへと指標が変化しています。

パーパスやビジョンを実現に導く企業文化の重要性

編:従業員エンゲージメントにおいて、企業と従業員が何でつながりを持つかと考えると、“ありたい姿”であるパーパスやビジョンが核になると思います。このパーパスやビジョン、「策定したものの形骸化してしまう」という問題はよく聞きますが、どのように定着させられるのでしょうか。

人・組織に向き合う方がもっとも頭を悩ませるのは、パーパスやビジョンを「創る」ことでも「伝える」ことでもなく、組織の中でその実現に向けた「行動を生みだす」ことではないでしょうか。どれほど崇高なパーパスやビジョンでも、行動に移されなければ意味がありません。逆に、従業員エンゲージメントが低下する事態すら引き起こすかもしれません。

では、なぜ行動が生まれにくいのか。ゼロインでは、従業員の行動に影響する重要な要素のひとつが企業文化だと考えています。

たとえば、これまで徹底的な成果主義で「売上をあげた人が絶対的に偉い」という企業文化の会社が、「ビジョンやバリューを大事にしよう」と理念の見直しを実施して「顧客への新しい価値の創造」を掲げたとします。若手社員がその内容に強く共感し、新しい理念の体現に向けてイノベーションに挑戦しようとしても、上司から「そんなことより、売上はどうなっているのか?」と言われてしまえば、理念は一気に機能不全に陥り、誰も「新しい価値の創造」に向き合おうとしなくなります。

企業文化は、組織の思考習慣や行動パターン、判断基準に影響を与えます。社歴の長い管理職や上司ほど、企業文化に染まっています。最初は違和感を覚えた新入社員も、先輩から「うちの会社では、こういうものだ」と言われ時間が経てば、それが当たり前となり、何も感じなくなってしまいます。

企業文化は組織のオペレーティングシステム

個人や組織の行動は、暗黙となっている企業文化によって生み出されています。私たちはよく企業文化を、コンピューターを管理・制御するオペレーティングシステム(OS)に例えています。AppleであればiOS、GoogleであればAndroidがOSですが、新しいアプリケーションを使いたくてもOSが古いと、正常に動作しなかったり、動きが鈍くなったりします。また異なるOSのソフトは、そもそも起動すらしません。

会社によってOSは異なるため、社内の行動を変えたり、新しい制度や施策を始めたりするには、OSにあたる企業文化をアップデートしなければなりません。他社で成功したモデルを真似しようとしても上手くいかないのは、基盤となる企業文化が異なるからです。

もちろん、「現在の企業文化が絶対的な悪者で、変えなくてはならない」という話ではありません。以前はフィットしていたからこそ、会社や事業が発展して今があるわけで、時代が変化する中で「合うもの」と「合わないもの」に分かれてきているのです。

たとえば、「みんなで合意形成する」ことを大事にする企業文化であれば、みんなが納得感を持って物事を進められる良い面もあれば、意思決定のスピード感に欠ける悪い面もあります。事業のスピードを高めていきたいのであれば、企業文化を変える必要がありますよね。

企業文化のアップデートが行動を生みだす

制度や施策などの仕組みで社内を変えようとする動きは多くの会社で起こりますが、社内の反発で導入が頓挫したり、導入しても定着せずに廃れたりしがちです。重要なことは、制度や施策の導入によって社内の意識や行動を変えようとするのではなく、目指す“ありたい姿”に応じて、意識や行動の基盤となっている企業文化も同時に変えにいく必要があるということです。

先ほど、管理職や上司によって新しい行動が妨げられる例を挙げましたが、逆に「それいいじゃん」「もっとやっていこうよ」といった後押しがあれば、自信を持って行動できるようになります。さらに人事や経営を巻き込み、評価制度や表彰制度のリニューアルまで踏み込むことで、会社・経営から全面的に評価・称賛されるようになれば、全社的な動きが加速していきます。

つまり、ブランドやビジョンを見直し、従業員に対して「意識を変えよう」「行動を変えよう」というメッセージを発信する際には、これまでの行動のもととなっていた企業文化を分析し、生みだしたい変化に応じた企業文化へのアップデートも同時に推し進めることが重要なのです。

パーパスやビジョンは、従業員一人ひとりの行動によって実現へと近づきます。従業員の行動を促進させることは“やりがい”を生みだし、より強固な従業員エンゲージメントにつながります。さらに、顧客接点やサービス・プロダクトを通じて社内外と接点を持つことで、コーポレートブランドをも形成していきます。

では、どのように企業文化をアップデートすればいいのでしょうか。次回は、具体的なステップや取り組みのヒントをご紹介していきます。

この記事の著者

三宅 欣広

株式会社ゼロイン シニアコンサルタント
1997年からリクルートグループにおいて人材領域を中心に採用広報の企画・制作に携わる。2010年、株式会社ゼロインに入社。インターナルコミュニケーションのコンサルティング、コーポレートブランドの策定・浸透サポートなど多数プロジェクトに従事。現在はシニアコンサルタント 兼 コミュニケーションデザイン総研責任者。

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