銀座を中心とした各地に保有するビルの賃貸事業を中心に、宿泊事業や収益ビルの開発事業、仲介事業など、多様な不動産事業を展開するソリューション型総合不動産業の北辰不動産株式会社様(以下、北辰不動産)は、創立60周年をきっかけに新たな企業理念となる「プロミス」および「カルチャー」を社員主体で策定しました。
策定したプロミスとは、実現したい未来に向けて北辰不動産が向き合い続ける約束をステークホルダーに宣言する言葉です。そしてカルチャーは、プロミスを体現・実践するために組織全体で大切にする価値観・文化(行動基準)です。
ゼロインはこのプロミス・カルチャー策定プロジェクトにおいて、プロジェクト全体設計、ワークショップ設計、ワークショップファシリテーション、言語化・ビジュアライズ、理念体系化まで、約半年にわたって伴走しながらサポートしました。
社員を巻き込んで取り組んだプロジェクトに対する思いや策定までの道のり、プロジェクトを通じて生まれた社内の変化について、60周年委員会委員長の常務取締役 網谷隼宏さんと60周年委員会委員の広告宣伝部 兼 市場開発部 課長 遠藤祐司さんにお聞きしました。
お客様情報
目的
ゼロインのサポート内容
新しい企業理念となるプロミスおよびカルチャーの策定は、「次の10年、20年を担う若手・中堅社員が当事者となって会社の未来を考えてほしい」という経営陣の思いから実施が決定しました。そこで創立60周年という節目の機会を利用して社内プロジェクトが立ち上げられ、3つのフェーズが社員主体で進められました。
フェーズ1では、会社の歴史や強みを振り返ると同時に、会社として実現を目指す“ありたい姿”や自社の価値を整理します。フェーズ2では、それら議論の内容をもとに、ワークショップ形式でプロミスとカルチャーを策定しました。そしてフェーズ3では、周年記念式典や記念ノベルティ作成の機会を活用し、プロミス・カルチャーを社内外に浸透させる施策に取り組みました。
プロミスは、北辰不動産の存在意義として、向き合い続けるステークホルダーへの約束です。プロミス策定は、これからの北辰不動産を担う若手・中堅社員が中心となってワークショップを行いました。
カルチャーは、組織全体で大切にする価値観・文化(行動基準)です。策定ワークショップには全社員が参加し、北辰不動産の強みや”らしさ”、会社として実現したい未来、その未来に必要な価値観や文化について、周囲と対話を重ねました。
策定したプロミスとカルチャーは、既存の企業理念に組み込まれ、理念体系図として整理されています。体系化することでそれぞれの言葉が示す意味やつながりが明確になっています。
ゼロイン成井:60周年という節目にあたり、北辰不動産株式会社が実現したい未来に向けて、社会に対する約束である「プロミス」と、この約束を実現に必要な行動指針ともなる「カルチャー」を、従業員のみなさまが中心となって策定されました。
そして策定したプロミス、カルチャーは、周年記念式典当日までにさまざまな施策を用いながら、1年以上かけて社内外に展開してきました。今回のプロミスやカルチャー策定は企業理念体系に組み込まれており、企業における大きな転換点だと感じます。どのような思いから今回の取り組みが行われたのでしょうか。
網谷さん:周年記念の施策を検討するに際して、富田(代表取締役)から「60周年を迎えて良かったね、で終わるのではなく、20年先、30年先を見据えた再スタートにつながるようなことに取り組みたい」と方針が示されたことを覚えています。
まず周年記念式典を検討したのですが、当時は新型コロナウイルス感染症の影響がまだ不透明だったこともあり、社外の方はお招きせずに社員のみで執り行うことに決定しました。そこで、必要以上に豪華にするのではなく、社員にとって意味のある周年にしたいと考えました。
遠藤さん:私は、年に2回行われる社長面談の場で「周年はお祭り騒ぎではなく、事業にしたい」と聞きました。それは、社員が「お客様」扱いでもてなされるような場ではなく、全社員が当事者として「参加」する形式にしたいのだと理解しました。ただ、何をどのように実施すれば事業となるのか、その時点では具体的なイメージはまったくありませんでした。
ゼロイン成井:そうした検討の初期段階でお取引先様経由でゼロインにご相談いただき、ゼロインから「周年を事業として実施するために、まずは社員のみなさまが現状をどのように感じられているのか聞いてみませんか」とご提案しました。インタビューやアンケートを用いた社員リサーチからスタートし、遠藤さんにも社員代表の一人としてインタビューにお答えいただきましたよね。
遠藤さん:私は以前から、役員・社員間や社員同士等の社内のコミュニケーション不足を課題に感じていたので、インタビューではその課題感を中心に率直にお話ししました。当社は中間層が少なく、部長の次が一番下の社員という部署も多いことや、新卒採用を行っていないため、同期といった気軽に相談できる相手がいないことに悩む社員もいます。
そうした社内の状況から、大きな不満があったわけではありませんが、社内のコミュニケーションをもっと活発にできればいいのに、という思いがずっとありました。
私以外にも、数名の社員にインタビューに協力してもらいました。インタビューやアンケートでどこまで本音を伝えてくれるのか不安な気持ちもありましたが、リサーチ結果には私が課題に感じていた内容が共通の悩みとして表れており、多くの社員が抱えていた悩みだったのだと再認識できました。
網谷さん:みなさん、普段から何かしらの問題意識を持っていたんですよね。ただ、これまでは伝える場がありませんでした。今回の周年事業を機会に、社員の思いを経営陣に伝えられるオフィシャルな場を設定できたことは、非常に大きな意義があったと思います。
社員が感じる会社としての課題や悩みがインタビューやアンケートでオープンになったことで、個人の悩みから組織全体の課題として認識できるようになり、会社として取り組む準備ができました。私自身、社員が抱える悩みや課題について、あらためて考えさせられました。
遠藤さん:実はインタビューやアンケートを実施した当初は、「声を上げてもそれほど変わらないのではないか」と考えていました。しかし、その後のワークショップやフェイズ2やフェイズ3のなどのプロジェクト活動で周囲と意見を出し合い、共有していく中で、少しずつ変わっているんだなという実感を持つようになりました。自分の意見をアウトプットする意味や重要性を感じます。
ゼロイン成井:社員のみなさまの意見をお伺いする場を設けたことが、課題認識を揃えるだけでなく、みなさまの意識変化にもつながる良い機会になりましたね。その後、リサーチ結果をもとに周年事業で取り組みたいテーマを3つ定め、そのうちの1つが旗印となる言葉づくりでした。
ここで社長から「会社の20年後~30年後の未来を担う次世代の人たちに進めてもらいたい」という話があり、経営陣・部長の方々は原則参加せず、若手・中堅社員のみなさまが主体となるプロミス策定のワークショップがスタートしました。全6回、約半年をかけて策定していきましたが、参加されてみていかがでしたか。
網谷さん:これまで、会社の方針や未来は、社長と専務を中心に役員のみで決めてきました。ところが今回は、社員たちが当事者として会社の行く末を考えることになり、これまでにない思考が必要になりました。参加した社員も、普段は数値や日常業務に追われていますが、経営者の目線で北辰不動産の未来をじっくり考える貴重な機会になったと思います。
遠藤さん:未来を想像して言葉にしていきましたが、不動産業界でリアルなモノを扱っているビジネスだからこそ、不確かで抽象的な未来をイメージすることの難しさを感じました。未来ではなく目の前のことに何度も思考が引っ張られてしまい、そのたびにゼロインさんに視点を引き戻していただきながら、どうにか議論を進めていった記憶があります。
網谷さん:「ワークショップを重ねていけば、必ずゴールにたどり着く」とゼロインさんからアドバイスいただきましたが、やはり当初は「本当に自分たちでプロミスを決め切ることができるのか」と不安を感じながらのスタートでした。ですが、ゼロインさんに客観的な立場から多様な視点を示していただいたことで、あらためて自社の強みを見つめ直すことができ、自分たちがどうなっていきたいかについて、納得できる方向性を考えられました。
ゼロイン成井:プロジェクト後半では、プロミスやカルチャーの最終的な表現について、ゼロインからアウトプット案をご提案しました。しかし、プロジェクトメンバーのみなさんから「言葉は自分たちで決め切りたい」と、最後までこだわり抜いて策定されたことが非常に印象的でした。
遠藤さん:プロミスは未来に向かう言葉ではあるものの、現在地から離れすぎている言葉では社員の共感を得られません。かといって、現状に近すぎても策定する意味がありません。その未来との距離感にこだわりました。
ゼロインさんから提案いただいた案も参考にしながら、自分たちが使っていく言葉として、納得感のあるものを自分たちで作り上げたいという思いがありました。特に、当社は複数の事業を展開していますので、どの事業の部署に所属していても腹落ちできる言葉を作りたいよねと、メンバーとは会話をしていました。
もっとも議論になったのは「笑顔」というワードをプロミスに取り入れるかどうかで、策定の大きなポイントでした。これまでの理念や方針では使用してこなかった、社内にはあまり馴染みのない言葉です。不動産業という事業を考えたときに、「笑顔」は過度に抽象的な言葉という意見もあり、議論は難航しました。
遠藤さん:そこで、あらためて事業を俯瞰して捉えてみると、お客様、お取引先の皆様、弊社の社員、弊社を支えてくださる協力会社のみなさま、そうした多くのステークホルダーと関わりながら事業を行っていることは、どの部署にも共通していることに気づきました。そうした当社に関わるステークホルダーの皆様全員が喜び、笑顔になっていくことこそが企業活動において大切にしたい、目指すべき未来の光景ではないかという考えに至りました。
こうした議論を通じて、たとえ部署が異なっても共通する“北辰不動産らしさ”があることを感じられる「笑顔」という言葉を、プロミスに取り入れることが決定しました。
ゼロイン成井:プロミス策定はプロジェクトメンバーのみなさまで進められましたが、カルチャー策定では参加対象を広げ、社員全員がワークショップに参加しています。みなさんで作り上げたプロセスについて、どのように感じられていますか。
網谷さん:カルチャー作りのワークショップは、全社員にとって自分の考えを周囲と共有できる、会社に伝えられる場となり、心理的にポジティブな変化が生まれていると感じます。これまでは経営陣だけで決めていた会社の未来を、より自分事として捉えてもらえるようにもなりました。
これまでであれば、「10年先や20年先にどんな会社であるべきかについてそこまで興味を持っていない」という社員が大半だったかもしれません。しかしワークショップを通じて、「10年後はこんな会社になっていたら良いな。そうしていきたいな」と意識が変わっていきましたし、だからこそ最後まで自分たちの思い描く未来に向かうための表現に皆でこだわりました。
ゼロイン成井:自分たちで作った言葉としてみなさんの思いが強くなった、というのは嬉しいですよね。その後、社内での浸透の度合いはいかがですか。
遠藤さん:みなさん、その言葉を使うようになりましたね。「輝き」や「掛け合わせよう」など、生まれた言葉が日常の会話の中で使われているのを耳にします。本来の意味から多少ずれている使い方もあるかもしれませんが、このプロミスやカルチャーの策定をしていなければ出てこない言葉だと思います。
網谷さん:カルチャーの浸透策はこれから取り組むため、何か劇的な変化が起きたわけではありません。しかし、カルチャーの言葉をPCのデスクトップの背景画像に設定している社員もいますし、社員たちの意識の中に残っていると感じます。自分たちで作った言葉だからこそ、馴染みやすく、思い入れのある言葉になっているのでしょうね。
カルチャーは、今後、会社の変化に伴って定期的な見直しやアップデートが必要となりますが、そうした変化も含めて社員一人ひとりが会社の方向性や文化を意識する機会になると思います。
ゼロイン成井:周年事業を終えられて、プロジェクトの中で感じたゼロインへの印象や、委託メリットをどのように感じられましたか。
網谷さん:プロミスやカルチャーを自分たちだけで考えようとすると、どうしても現実的な、広がりのない言葉になってしまうと思います。ゼロインのコンサルタントのみなさんに、進め方や視点について何度もアドバイスをいただいたことで、自分たちの殻を破ったメッセージを作ることができました。
カルチャー策定では、一度決まりかけた言葉がゼロインさんの一言で再度見直すことになりましたよね。でも、それは非常に良いプロセスだったと思います。安易な方向に流されているのではないか、という鋭い指摘で、社内にカルチャーが浸透していく先々まで見据えた、真剣な熱量を感じました。
また、周年記念式典ではプロミスやカルチャーに絡めた企画として「謎解き」をプロデュースいただきましたが、企画の背景や議論を踏まえて「北辰さんはこういうことをやりたいはずだから」と、高い理解力で企画に一貫性を持たせてくれました。同様に、新たに制作したブランドムービーも、策定プロジェクトとのつながりを持たせたものにすることができました。
プロミス・カルチャー策定に伴走いただいたゼロインさんだからこそ、浸透施策にも深く関わっていただくことができ、周年事業の質を高めることにつながったのだと思います。
ゼロイン成井:最後に、プロミスの言葉に込めた思いをあらためて教えてください。
網谷さん:「ここにある輝きを ともにカタチに」というメインメッセージの「ここ」という言葉には、3つの意味が込められています。
1つ目は「此処」、場所や空間の意味です。当社は不動産業であり、目の前の物件や土地に秘められた潜在的な可能性をカタチにしよう、という思いです。
2つ目は「個々」で、社員一人ひとりが能力を結集し、その力を掛け合わせて一人ではできないことを実現していこう、という意味です。当社の社員だけではなく、関係会社の方、社内でも自分たちの部署を越えて、強みを掛け合わせて、より良い価値を生み出していこうとしています。
3つ目は「CoCo」で、「コミュニケーション(communication)」と「コミュニティ(community)」の2単語から「Co」を組み合わせています。当社の商品である『ココキューブ』や『ココスペース』などを通じて、人々のつながりやコミュニケーションを広げたいという意味です。
このメインメッセージにくわえて、5行のサブメッセージでさらに解釈を広げるようにプロミスは構成されています。
当社が目指す未来は、お客さまであるテナントの方や投資家の方の願いが実現する未来、エンドユーザーの方が快適で楽しい時間を過ごせる未来、取引先や協力会社の皆様とWin-Winの取引が続く未来、そして社員一人一人が活き活きとやりがいをもって働く未来です。そして、これらの未来に共通する光景・キーワードが「笑顔」です。一人ひとりの笑顔は、私たちが建物や土地の付加価値としてプラスを創った先にあり、そうして生まれた多様な「笑顔」が繋がっていくことによって、私たちが関わった建物や土地で生まれた「笑顔」が街全体に広がっていく、という、当社が思い描く未来を実現するまでのストーリーになっています。
60年間の信頼と知見を持つ当社であれば、社名の由来である北極星が船の進路を示すように空間の新しい可能性を示しながら、付加価値を創造し、ステークホルダーのみなさんと一緒に豊かな未来を創っていくことができますので、「私たちと一緒に未来を創りましょう」と呼びかける思いを込めました。
担当者の想い
周年記念式典の実施に関するご相談をいただき、北辰不動産様とのお取引が始まりました。60年を超えて存続する企業は非常に少ないと言われています。そこで、周年という機会を単なるお祝いの場にとどめるのではなく、社員のみなさまにもこれまでの歴史や会社の価値についてあらためて考えていただくきっかけにしよう――そうしたご提案のもと、理念策定からスタートを切りました。
まずはアンケートやインタビューといったリサーチを行い、みなさまの現状と理想像を整理しながら、周年事業を企画してきました。日頃あまり考える機会がない会社や組織の在り方をテーマにしたワークショップでは、難しさを感じる場面もありましたが、最後には「自分たちで考え抜き、理念を決定したい」と言っていただいたことが、特に印象深く記憶に残っています。
だんだんと活発になっていく議論や、社員のみなさまからの発信が増えていく様子を、この周年事業を企画する中でともに伴走しながら実感することができました。社員全員で考える理念策定という北辰不動産様の新たなチャレンジをお手伝いさせていただいたことを、大変嬉しく思っております。
この記事の著者
成井 里凪
株式会社ゼロイン アソシエイト
2022年、株式会社ゼロインに中途入社。前職では店舗経営管理を経験。ゼロイン入社後は、インナーイベント、周年プロジェクトなどのプロデュース経験を経て、現在はコンサルティング&プランニングのアソシエイトとして、映像企画やワークショップ設計などに従事。