『すべての“働く”を元気に。』を理念に掲げ、総務や人事、社内広報などのバックオフィス領域を中心に事業を展開する株式会社ゼロイン(CAPPY運営会社)は、2018年に設立20周年を迎えました。
定期的に訪れる周年記念は、企業が掲げる理念や大事にするブランドを従業員に伝達するインターナルブランディングの絶好の機会です。切りの良い節目のタイミングは、「次の5年、10年」と中長期視点で会社のことを考えるのに最適で、周年記念というハレの雰囲気が従業員の参加意識を高めるからです。
ゼロインではこの20周年を、取締役・管理職が参加した「バリュー・クリエイション(理念策定)」と、従業員有志が参加した「周年プロジェクト」によって形にしていきました。両活動は半年以上の期間をかけて取り組まれ、活動の集大成として20周年式典が開催されました。
この20周年式典の場では、バリュー・クリエイションを通じて10年ぶりにリニューアルされた理念が、従業員に初めて発表されました。周年プロジェクトのメンバーは、新しい理念に対する従業員の共感と理念体現行動を創出するために、式典当日と事前広報施策についてコンテンツ企画から実行まで奔走。結果、式典終了後のアンケートでは参加者の96.5%が「非常に良かった」「良かった」と回答する満足度の高いイベントとなりました。
どのような活動によってこの20周年式典が創られたのか。背景と取り組みを、レポート形式でご紹介します。
目次
延べ600時間以上を費やした理念のリニューアル想いを共有、理念を共創する4つのフェーズフェーズ1.過去を知るフェーズ2.現在を俯瞰するフェーズ3.未来を語るフェーズ4.明日に向かう従業員の共感を生みだす周年プロジェクトエピソードトークで、自分の仕事と理念との共感の接点を探る自分たちこそが、もっとも元気であるために関連する動画セミナー取締役・管理職が参加したバリュー・クリエイションでは、設立10周年時に策定された理念の見直しと、“ゼロインらしさ”の言語化に取り組みました。参加者全員の議論時間は延べ600時間以上にのぼり、新しい理念と3つのゼロインらしさが完成しました。
多角的な議論を重ね、紆余曲折を経てこの言葉になりましたが、常に意識していたのは「長く続く企業を目指す」というゼロインの根底にあるスタンスです。もちろん、ただ長く続くことが目的ではありません。長く続くためには、価値を提供することで「お客様から選ばれ」、魅力的な組織であることで「働く仲間から選ばれる」ことが必要です。そして長く続くからこそ、より多くのお客様や社会に価値を提供できるのです。
そこで20周年の機会を利用して、どうすればお客様や社会への提供価値を今以上に高めることができるのか?どうすれば従業員が元気に働ける魅力的な企業であり続けられるか?徹底的に考え抜きました。
大事にしたのは、20年の歴史の中でゼロインが培ってきた“ゼロインらしさ”です。世の中に多用な選択肢があふれる中で、「お客様に選んでいただいた」「従業員に選ばれた」、ゼロインならではの理由が必ずあります。その理由こそが、ゼロインの強みであり独自性、“ゼロインらしさ”です。
従業員一人ひとりが自由に思い描いていた「ゼロインの顧客価値」「◯◯だからゼロインが選ばれた」を発散・集約して、会社の共通言語にすること。そして会社や今の仕事に自信と誇りを持つことが、これからも「選ばれ続ける」ために必要な原動力であり、普遍的な価値観となります。そこに会社や事業の変化・進化なども盛り込みながら、新しい理念を形づくっていきました。
理念策定は、「1.過去を知る」「2.現在を俯瞰する」「3.未来を語る」「4.明日に向かう」の4つのフェーズに分け、取締役、取締役+部長、取締役+部長+課長と、参加者のレイヤーを広げながら議論を繰り返しました。
従業員の入社までの経歴や入社動機、過去に自分らしさを発揮できた仕事などを2人1組に分かれてペアインタビューし、他己紹介形式で発表します。それぞれの原体験を振り返り、一緒に働く仲間と「自分がなぜゼロインにいるのか(入社した理由、働き続ける理由)?」を共有することで、価値観のつながりを探っていきます。
そして創業者の大條(代表取締役)から参加者に、ゼロイン創業の背景や創業当時の志を直接メッセージします。そうすることで、ゼロインがどのような人と想いによって今日まで構築されてきたのかをあらためて理解できるのです。
参加者は所属する事業部門ごとに分かれて、「顧客から見たゼロイン」を深掘ることで自社の強みを言語化します。具体的には、実際にお取り引きいただいている顧客から1社を選び、顧客が抱える課題を経営視点と現場視点で書き出していきます。
顧客の課題を明確にした上で、顧客の課題解決にはどのような選択肢があったのか、顧客はどのようなソリューションを比較検討したのか、ゼロインの顧客価値は競合企業とは何が違うのか。そして最終的に「ゼロインが選ばれた理由」は何だったのか、などをワークで整理しました。
2で明らかにした「ゼロインが選ばれた理由」から議論をさらに発展させます。現在だけでなく将来にわたって選ばれ続けるために、これから何が求められ、そのためにどう変化する必要があるのか。理想のゼロイン像(=目指す姿)を明確にすると同時に、理想と現在とのギャップを埋めるための道筋を描きます。
この目指す姿はフェーズ1とフェーズ2の議論内容も反映して、20年間で培われたゼロインらしさの延長線上に置くことで、現在いる従業員にとっても実感値のある、地に足のついた道筋となります。
これまでに出てきたキーワードや想いを集約して、最終的な言葉を完成させます。大事にしたことは“綺麗な言葉づくり”ではなく、参加者自身が納得・共感できるようにじっくりと議論を深め、メンバーに背景や想いを含めて自分の言葉で伝達できるようになることでした。
20周年を迎えるに際して、「従業員を対象にした周年式典を実施して、その場で新しい理念と中期経営計画を発表する」ことは取締役会で事前に決まっていました。そこに「周年式典はゼロインが顧客に提供しているサービスのひとつ。会社を元気にする式典を、従業員みずからが考えてつくりあげてほしい」という大條の想いが加わり、従業員主体の周年プロジェクトが立ち上がりました。
有志を社内で募集したところ、30名を超える従業員から参加希望が寄せられました。そこで「20周年プロジェクトでやりたいこと」アンケートを実施し、その結果から「理念・ブランド」「イベント」「モノづくり」「働き方改革」「広報」と機能ごとの分科会活動が動きだしました。
まずは「20周年式典がどうなれば成功なのか?」、プロジェクト全体のゴールを設定します。プロジェクトメンバーや経営陣との打ち合わせを重ね、「従業員が新しい理念と中期経営計画に共感し、未来に向けたはじめの一歩を思い描く日」をゴールに定めました。
特に「理念への共感」には重点を置きました。なぜなら理念は大きな世界観を描くため抽象的で大きな言葉になりがちで、背景や文脈をしっかり伝達できないと、策定プロセスに関わっていない従業員は内容を咀嚼できずに絵空事として頭の中を通り過ぎてしまうからです。中期経営計画も同様で、未来の話は目の前の仕事が忙しい従業員からは実感値のない話になります。
そもそも、理念に限らず経営から発信される新しい言葉や数字は、発信側と受信側との理解度に差が生まれやすいものです。発信側は熟慮を重ねて内容を煮詰めており、シャープかつシンプルに磨きあげられた言葉だと自信を持っています。しかし受信側にとっては初めて聞く言葉であり、新しい情報を受け止めることに必死で、聞き馴染みのない言葉や新しい数字が出た瞬間に処理しきれなくなります。
そこで今回は「理念への共感」を生みだす環境を醸成するために、複数の事前施策を企画しました。
広報紙を通じた事前広報では、社歴の長い社員に登場してもらい、会社の変化や培ってきた強みについてインタビューや対談形式で語る連載企画を行いました。特に入社歴の浅い従業員を対象に、会社がどのように成長してきたのかを伝えることで、式典当日のスピーチ内容やその文脈に親しみを持ってもらう仕立てです。
登場者とトークテーマを変えながら全8回、社内への掲示やメールへの添付など定期的に発信を繰り返しました。
もうひとつは事業部・役職・年次を越えてオープンに会話する参加型イベントで、『働き方考えNight』『未来Night』『営業Night』などのテーマごとに集まります。日常業務から切り離して未来思考で語ることをルールに設定して、「自分の理想の働き方を考えてみよう」「未来がどう変化するかを考えてみよう」「今までにない顧客価値を考えてみよう」と、自由な発想で語ります。
業務終了後に集まり、前半はワーク形式で少し真面目に、後半はお酒を飲みながら議論を発散させることで、楽しみながら自分と未来の接点を生みだしました。
ほかにも当日に向けた一人ひとりの参加感を醸成するために、社内SNSグループでカウントダウン広報を実施しました。周年プロジェクトメンバーでない従業員も、“式典に招待されたお客様”ではなく一緒に20周年を創ってきた当事者です。20周年式典が「周年プロジェクトのメンバーがやっているイベント」とヒトゴトにならないよう、全従業員が参加できる企画を考え、巻き込みながら進めていきました。
式典当日だけでメッセージを完結することには限界があります。事前にインプットやアウトプットの機会を設ける、自由な発想をしてもいいのだという心理的に安心安全な環境を準備することで、未来志向でメッセージを吸収しやすい下地が少しずつ醸成されていきました。
そして少しでもいいので全従業員を巻き込んで関わってもらえるようにすることで、「自分たちの20周年だ」という感情を持ってもらえることを狙いました。
20周年式典は「式典の部」と「懇親会の部」に分け、土曜日のお昼から半日をかけて開催しました。式典の部は約3時間半をかけて、次のようなプログラムでした。
今回の式典では、あえて未来の話に大きく振り切った構成にしました。社内を見渡すと3年以内に入社した従業員の割合は60%を超えていました。創業期から黎明期の苦労を懐かしむ、事業成長を誇りに思うことも良いのですが、より重要なのは「今いるメンバーで今後どのような会社を実現していくか」です。
また、仮に1日・2日と長い時間をかけたコンテンツを企画して情報を詰め込もうとしても、人間の記憶には限界があるため、本当に伝えたいことが伝わらなくなる可能性があります。プロジェクト開始時に定めたように、式典終了時に「会社が実現しようとしていること」を理解して、「自分にどんな行動が必要か」を具体的にイメージしてもらうことがゴールです。余計な情報は排除してシンプルにメッセージを伝えたいという想いで設計しました。
そこで核となったコンテンツが『バリューワーク』です。理念は、言葉をつくって発表することがゴールではなく、従業員がそこに込められた想いや世界観に共感して実現のために主体的に行動している状態がゴールです。
今回の理念は、創業から現在までにゼロインが培ってきた“らしさ”を凝縮することで完成しました。つまり、現在進行形で従業員一人ひとりが体現している行動の集合体とも言うことができます。
そこで『バリューワーク』では、自分がお客様に提供できている「元気」は何か?それはどんな瞬間に、どのように提供できているのか?新しい理念が書かれた大きな模造紙をテーブルの中心に置き、一人ひとりが自由に書き込んでいく仕立てにしました。島型のレイアウトで1テーブルごとに6人程度、所属部門が重ならないように座席を配置したことで、模造紙には各人各様、多様な“元気を生みだした”エピソードが並びました。
書き出した後は『すべての“働く”を元気に。』を体現したエピソードを順番にテーブル内で共有します。そうすることで、発表された新しい理念は遠い未来の話ではなく、現在の仕事の延長線上にあるのだと感じることができます。さらに自分が提供している“元気”だけでなく、部門を越えて各メンバーが提供するエピソードを聞くことで、ゼロイン全体が1つの軸をもって価値提供できていることを実感できるのです。
新しい理念の発表を前半に持ってきた理由は、その後に発表する『中期経営計画』『事業ビジョン』『従業員への期待』などのメッセージが、すべてこの理念をもとに構成されているからです。すべての根幹はこの理念であり、各コンテンツで繰り返し語ることによって、理解が一層深まっていきます。
式典終了後は別会場に移動して、懇親会の部を開催しました。プロジェクトメンバーがプロデュースしたサプライズのオープニング映像とオープニングアクトに始まり、新人芸、有志チームでの芸能大会、最後には家族から大條へのサプライズ演出と、盛沢山のコンテンツで20周年を祝いました。
懇親会は、他事業の仲間とつながることができる貴重な場で、意外な一面を垣間見ることができます。
人が働く環境を選ぶ際に、「何をするか」と同時に「誰とするか」は非常に重要な要素です。従業員エンゲージメントの観点では、もっともエンゲージメントに影響する要素は人間関係だとする調査もあります。
一人のプロとして仕事をすることは大前提ですが、共通の理念のもとに集まった仲間です。これから「すべての“働く”を元気に。」を目指すのであれば、自分たちこそが日本でもっとも元気に働く集団でありたいと考えています。今回の懇親会は、オンもオフも徹底的に楽しむ魅力的な集団であることを実感する時間となりました。
当日参加者のアンケートは5段階評価で平均4.5点を超え、非常に高い満足度を実現しました。フリーコメントには、「理念への共感」「これから自分がどのように行動するつもりか」「30年式典を盛大に開催したい」と未来を意識した声が多く寄せられ、未来に新しい一歩を踏み出す象徴的な一日となりました。
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この記事の著者
中島 浩太
株式会社ゼロイン
2008年、株式会社ゼロインに新卒入社。インナーブランディング・社内コミュニケーション施策をプロデュースするコミュニケーションデザイン事業、ゼロインの管理部門、新卒採用担当、新規事業を経て、現在はコーポレートブランディング室において広報(社内広報・社外広報/PR)とマーケティングを担当。
インターナルブランディングの魅力的な取り組みを紹介するウェブメディアCAPPYの編集長として、さまざまな企業における企業文化づくりや組織活性化の取り組みを取材。